第56話

とりえず、朱雀に本当にやってもいいのかと伺いを立ててからにしてくださいと断りを入れて、珠璃はその場をなんとか切り抜けた。未の神使はとても残念そうに、見るからに落ち込んだ様子をみせていたけれどこれに至っては仕方がないと諦めてもらうしかないため、珠璃の方も申し訳なく思いながらも譲らなかった。


 しばらくそうして神使が集っている部屋で神使と共に過ごしていると、珠璃を探しにきた小鳥が慌てたように飛んできたかと思うと珠璃を見つけて一目散に突撃してきた。『探したんだよ!!』と涙声で言われた珠璃は、ごめんなさいと小さく謝ってそのまま小鳥を宥めるように撫で回したのだった。


 と、にょろん、と細長い存在――巳の神使が珠璃の脇から伸びてきて小鳥と邂逅する。一瞬、小鳥はその存在がなんだったのかわからなかったのかぽけん、と見つめ合う形になったかと思えば、その存在がなんなのかを理解した瞬間の取り乱し方がすごかった。



『ぎゃああああああっ!! ヘビーっっっ!!』


「ちょ、落ち着いて小鳥さん!」


『食われるぅーっ! こんなところで食われるわけにはいかないのにぃーっ!!』


「食べられないから! 大丈夫だから!!」


『助けてぇぇっ!!』



 あまりにも混乱している小鳥を見て珠璃もどうすればいいのかわからなくなる。こんなにも周りを顧みることなく叫ぶ小鳥は正直に珍しい。珠璃自身がよく怒られているため大声をあげるとかはよく出くわしているけれど、こんなにも焦った小鳥は初めてだ。


 羽を必死に羽ばたかせながら巳から逃げるようにしている小鳥が少しかわいそうになってきた珠璃は、どうにか落ち着かせようと両手でぱくっと小鳥さんを閉じ込める。突然の暗闇に驚いたのか、小鳥はものすごい勢いで叫んでいたけれど、それもほんの少しの間だけで、突然、すん、と落ち着きを取り戻したように動くこともしなくなった。あれ? と思って珠璃は閉じ込めていたてを開けばぽてーんと手のひらの上で転がっていた。



「…………ご、ごめんね、小鳥さん」



 気を失っているとわかっていてもすごく申し訳ない気持ちの方が勝ってしまい思わずそう謝罪を呟いてしまった。



『……なんじゃ、その、悪かったの……』



 珠璃の脇からひょこりと出てきていた巳の神使も、なんだか申し訳なさそうにそういったのだった。



『……別に其奴を食おうとはしていなかったと思うのだがのぅ…………』


「なんかすみせん……」



 なんでお互いにこんなことをいいあっているのだろうと思いつつ、珠璃は巳の神使にも謝罪をしたのだった。



『ところで、君はどうしてここにきたの?』



 そういったのは未の神使だ。珠璃は一瞬、ぽかんとしたがああ、と思い出す。



「早くに目が覚めてしまったから、気分転換に散歩していたらここに辿り着いたんです」


『ふーん……? でも不思議だね』


「え?」


『ここは見ての通り、神使である僕らの憩いの場所だから。そんな簡単に辿り着ける場所ではないはずなんだよ』


「…………え」


『だから、君がきた時は少し驚いちゃった。でも、君はなんだかそばにいてくれると気持ちが落ち着くというか、こう……なんだろう? 何?』


「いや、それを私に聞かれましても……」


『まあとにかく、そばにいてくれるとなんか気分がいいってことだよ。よくわかんないけど、ありがとねー』


「……えっと、どういたしまして?」



 未の神使の軽い感じの言葉に、なんとか答えを返したのとほとんど同時に神使のいる部屋に誰かが入ってくる。


 くるりと振り向いた先に見えたのは真紅の髪に水色の瞳を持った男性――朱雀だった。



「お前……なんでここに……」


「ああ、朱雀。おはようございます」


「ああ……いや、普通に名前で呼んでくれよな。せっかく名を教えたんだから」


「またの機会でお願いします」


「……お前な……」


「それよりもなんでここに?」


「それは俺の言葉だと思うがな。俺は餌を持ってきただけだ」


『……朱雀、いい加減その言い方はやめてくれんかの?』


「ほれたまご」


『うむ!』


「…………なんとも言えない気持ちになったわ……」



 あぐっ、と口を上げて卵を丸呑みにしている巳の神使を見て、珠璃がそういったのはある意味仕方がないことだったかもしれない。


 朱雀はそのまま巳の神使にぽいぽいと餌を与えている。なんとも言えない光景だなと思いながらも珠璃はもぞもぞと動いて移動しようとした。が、それを阻むものがいた。



『行かないで〜、そばにいて〜』


「きゃっ! し、神使様……!?」



 もっふーん、ともっこもこの毛皮を持った未の紳士がピョーンと珠璃に向かって飛び跳ねてそのまま珠璃をガシッと掴んで離してくれなくなった。



「あ、あの……ものすごく重たいんですが……」


『だから刈ってっていってるんだよ?』


「……申し訳ありませんでした。ちょうどここにいますし、聞いてみましょう。朱雀、ちょっとよろしいですよね」


「聞きかたおかしいだろ」


「未の神使様のことですけど」


「俺の言葉は無視か? お前図々しい時あるな」


「私じゃなくてもいいと思いますけど、毛を刈って欲しいそうですよ? というか、なんでこんなにも伸ばしっぱなしにしちゃったんですか」


「手伝ってくれた奴らがまあ、しょうも無かったっというかなぁ……」


「ああ、なんとなくお察ししました。ご愁傷様です」


「言い方」



 朱雀に対しての軽口を叩いている珠璃に少し驚いていたのは神使たちだ。

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