第52話
「せっかく美味しいご飯を食べていたのに、なんですぐ横で言い合いをしている男のくだらない話を聞いていないといけないのかが意味わからない。というか、これ以上何かを言い合いたいのなら出てってください。私はこれから先は小鳥さんと一緒にご飯食べますから」
すでに苛立ちを隠すこともできないのか、額に青筋が浮かんでいるかのような幻影まで見えそうなほどの怒りをあらわにした珠璃に、さすがの【四神】に連なる二人も何もいえなくなったのか、大人しくなった。その様子を見て、小鳥さんが『……珠璃、すごい』と感動していたのはまた別の話である。
結局、二人は珠璃の勢いに負けてそのままその場では黙った。珠璃はその後も食後の水菓子までもらい、それを小鳥さんと一緒に平らげたのだった。
「……おい、【青龍】。なんであの鳥は普通に人間の食事をしている」
「……私に聞くな」
春嘉は、心の底からそう言ったのだった。
「お腹いっぱいになった? 小鳥さん」
『うん。なった!』
「ならよかった。これからどうしようか相談してもいい?」
『……ボクに?』
「うん。小鳥さんに。だめ?」
『だめではないけど…………。……………青龍、睨まないでくれない?』
「……気にするな」
『気になるから言ってるんだよ。自分が頼りにされないからってボクを恨みがましい目で見ないでよ……』
「頼られないということは頼りないということだ。あきらめろ、【青龍】」
「うるさい、【朱雀】。珠璃、相談ならわたしも一緒に……」
「静かにしているならいいですけど」
「…………」
『青龍……ことこれに関しては、お前の自業自得だと思うぞ……?』
「深く、反省します……」
そんな三人の会話を聞いていた朱雀が、この三人の力関係って結局はどうなっているんだろうと少し考えてしまった。
結局、それから朱雀には席を外してもらって珠璃たちは3人で相談することとなった。朱雀さえいなければ、春嘉はいつも通り、冷静な青年になる。なぜあそこまで朱雀と張り合うのかと、珠璃は首を傾げつつ、今後どうするかを投げかける。
「……この国にずっといても仕方がないと思いますけど、どう思いますか、春嘉さん」
「個人の合う合わないを抜きにすれば、それには同感です。朱雀はわたしよりもなお頑固なところがある。彼に頷かせるには相当骨が折れるでしょう」
『なんかサクッと解決できる手立てがあればいいんだけどなぁ……』
「……そんな提案があっさりと転がっているなら飛びついちゃうわよ、私」
『それはだめ。危険な事でも身を投げる珠璃には提案したくても出来ないよ』
「ひどい言いよう。私だってちゃんと考えるわよ?」
『考えてないから言ってるんでしょ。青龍の国で何をしたのか忘れたとは言わせないよ!?』
「あれは必要だったからやっただけで、私だって怪我はできるだけしたくないから。痛いの嫌だし……」
『その痛みに自ら飛び込んでいるのは珠璃自身なんだけどね』
容赦ない小鳥の言葉に、今度は珠璃が黙ってしまう番だった。ふんすっ、と小さな胸を突き出すようにして威張っているふうに見せている小鳥に、珠璃は「かわいい……」と思わず呟き、小鳥に再び怒られることになったのはまた別の話である。
「可愛いものは仕方ないと思うのよね……可愛いのが悪いのよ」
『すごい理不尽な事を言われているっていうのは分かった』
そんなことを言い合いながら、三人は本気でさてどうしようかと頭を悩ませていると、普通に朱雀が部屋に入ってきた。
「ならば、今から出す条件を飲み、それを達成できたのなら俺の紋章をくれてやるぞ?」
突然のその申し出に警戒したものの、珠璃は話を進めようと口を開く。
「条件とは?」
「珠璃、聞く耳を持たないでください」
『そうだよ! 何言われるかわかったもんじゃないのに!』
「いや、でもこのままここでぐずぐずしてても仕方ないと思うし……」
『それはそうかもしれないけれども!』
「大丈夫だよ。命をかけるようなことではないでしょう。多分」
『そんな危ないことになるなら絶対にやらせないからね!?』
「過保護だよ。大丈夫だってば。死なない死なない」
『その軽さやめた方がいいと思うっ!』
珠璃と小鳥さんの言い合いにどう反応すればいいのか少し悩みつつも、朱雀は言葉を続けた。
「一応死ぬということはないだろう。まぁ、怪我はするだろうがな」
『ダメ反対! 絶対に反対!!』
「小鳥に同感です。珠璃、危ないことはしないでください」
「怪我するぐらい別に……」
『程度によるとおもうんだけど、珠璃の程度は広すぎる。認められない!』
「その通りですね」
「……お前、どんだけそのことに関する信頼がないわけ?」
「そんなこと私に言われても困ります。けど、それよりもあなたは言ったことを覆すような人ではないとお見受けしましたけど、撤回はしませんよね?」
小鳥と春嘉の言葉を丸っと無視することに決めて、珠璃は朱雀をじっと見つめる。湖の仮面のような、爽やかな色の瞳をじっと見ていれば、朱雀が面白そうな表情を緩め、はっきりと頷いた。
「当たり前だろう。二言などありはしない」
はっきりとしたその言葉に、珠璃はなら、と言葉を紡いだ。
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