参.朱雀〜武闘大会〜

第47話

しばらくは『東春国とうしゅんのくに』で体の傷を治療してもらった珠璃は、国に入った時と同じで外套を深く被り、頭に小鳥さんを乗せて、そして隣に春嘉を立たせて出発することとなった。


 本来ならば断固拒否したいところだったのだが、春嘉に内緒で神使たちに抗議をしようと兎と寅の神使をとっ捕まえてなんとか春嘉の考えを改めてもらえるように説得をと相談しにいったが、二匹には断られてしまった。なんでと思ったが、寅曰く、『それをこっちがしていないと思うのか?』と言われて仕舞えば、そうですよね、ということしか言えず、珠璃が黙る羽目になる。


 結局、国を出るまで珠璃の方でなんとか説得を試みてみたものの、春嘉は全て笑顔で断ってきてその努力は無駄に終わったのだった。



「……春嘉さん」


「なんですか?」


「本当に、あの……私と一緒に来ても仕方がないと思うので……」


「それはもう散々話し合いましたね」


「……納得がいっていないから、こうやってまた話を切り出しているんです」


「それは珠璃の中で納得していただくしかありませんね」


「…………」



 きっとなにをいってもこういった押し問答になるんだろうと早々に察した珠璃はそのまま黙々と足を進めることにした。それに満足そうに頷いた春嘉も、珠璃に続いていく。



『……お前、青龍……そのうち嫌われるぞ……』



 小鳥さんが珠璃の頭の上から春嘉にそう警告を出したのだった。






 10日ほどかけて珠璃たちは『東春国』を出て、そのまま境となる『南夏国なんかのくに』に入っていった。


 珠璃は正直、春嘉は野宿をすれば諦めるだろうと軽く考えていたのだが、彼は全く怯むことなく、むしろ火の番や珠璃のためにと春嘉の能力を使って、木の枝などで編み込んだ簡易的な寝台まで作ってもらい、今までの野宿の中では考えられないほど充実した眠りを与えられた。


 このままでは逆に自分の方がダメになってしまうそうだと思いながら、珠璃は先を急ぐ。


 そしてさらに数日経過したその日。



「…………暑い………!」



 突然の気温の上昇に、珠璃はへばっていた。



「……珠璃、お水ですよ」


「いえ……春嘉さんが飲んでください……」


「わたしは大丈夫ですから。慣れていますし」


「慣れてるってなんなんですか……これって慣れるものなんですか?」


「まあ、四神は時々ですが、顔を合わせることもありますからね。わたしはまだ朱雀にしか会ったことはありませんが」


「……春嘉さんからお願いすれば、紋章、すぐにもらえると思いますか?」


「いえ。無理でしょうね」


「即答ですか……」


「この国は血の気の多いものが多いですから。そしてその国民を率いている人物こそが朱雀ですよ」


「うわ、会いたくない……」


「……まあ、その気持ちはわかりますが……」


「けど、さすが常夏の国。女性でもある程度素肌を晒しているんですね」


「まあ、彼らから見たら今のわたしたちの格好の方が疑問でいっぱいだと思いますよ」


「……たしかに、常夏の中でこんな服着ていたらそう思われても仕方がないですよね」



 そう言って珠璃は自分と春嘉の服を見た。春嘉は【東春国】らしく、優雅な雰囲気の衣服を身に纏っている。変わって珠璃は足首まで隠れるほど長い外套を頭らかぶっている。誰がどう見ても、暑苦しいと言われても仕方のない格好であある。



「……どこかで衣服をか買った方がいいのかしら……」


「購入するのなら、言ってください。支払いは任せてくださいね」


「……いやいやいや。そんなことはさせられないので」


「なぜですか?」


「いや、なんでって言われましても……」



 こてん、と首を傾げている春嘉を見て珠璃はどう伝えればいいのかと悩んでしまう。


 と。



「そこのお二人さん、外国からの人かい?」


「!」



 突然話しかけられて珠璃は驚いて、春嘉はスッと珠璃を隠すように前に出る。そんな2人を見ても声をかけてきた人物はズンズンと近づいてきている。


 燃えるような赤い髪。透き通った水のような美しい瞳。春嘉のような流麗さを感じさせず、むしろ野性味の強さが際立つ男性。それなのに美丈夫という。腕をさらけ出すような上衣を羽織り、下衣は邪魔にならないようにするためなのか履いているブーツの中にしまって、紐でぐるぐる巻にして固定している。



「……」


「おっと、警戒心が強いじゃねぇか。別にそんなにも警戒するような間柄じゃあないだろう? 青龍】」



そう言って、口角を上げてニヤリと笑ったその人を、珠璃は驚きで見つめてしまう。



「……あなたが直々にこちらに出向くとは想像もしていませんでしたから」


「つれないことをいうねぇ。ま、なんでもいいからついて来てくれ」



 そう言って、背中を見せて歩いていくその姿を見つめる。そんな珠璃に春嘉がそっと身をかがめて耳元で囁いた。



「……彼が、この【南夏国】を収めている四神が一人、【朱雀】です」


「!」



 やはり、という気持ちと同時に、どうしてという気持ちが溢れる。珠璃は警戒を怠らないうようにしようと心の中で自分に言い聞かせてそのまま春嘉に促されるままに彼の後について【朱雀】の後を追っていった。

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