第20話
そこそこ大きな広間についた二人は、当たり前だが珠璃は抱き上げられている状態で、珠璃を抱き上げている状態で。その光景を見て一番に悲鳴をあげたのは、青龍である春嘉ではなく、妹である鈴でもなく。珠璃と共に行動を共にしていたあの小鳥だった。
『なっ、な、ななっ、何事ーッ!? うわーんっ!! だめーっ! はーなーせーっ!! 珠璃ーっ!! だめだからーっ!!』
なぜか春嘉が手に持っている鳥籠の中にある小鳥が珠璃達のその様子を見るなり、ものすごい勢いで鳥籠の中で大暴れし、鳥籠はがっしやんがっしゃんと音を立てる。春嘉の方も自分の護衛である彼が彼女にしているその行動に驚きているのか呆然としており、鈴だけは何やら楽しそうにニヤニヤとしている。
小鳥が大暴れして自力で鳥籠の中から飛び出し、慌てて羽ばたいて珠璃達のところまで飛んでいく。珠璃のお腹の上にちょこんとのって、小鳥はめそめそと泣き出した。
『しゅ、珠璃、こいつのことが好きなのかっ? でも、こいつはだめだぞ! 珠璃を助けるためとは言え、あんなにも乱暴に珠璃を引っ張った! 珠璃を大切にしてくれてなかったんだ! 絶対に許さないよ! ボク!!』
「………なんの話をしているのよ、小鳥さん……」
『だって…っ! 珠璃が男に抱かれているから…っ!!』
「字面だけだとものすごく誤解を招くような言葉だけど、まあ間違ってはないかもしれないよね。でもほら、これは私の体のことを考えてやってくれた結果らしいからね? そんな危ないこと言わないで」
『ほっ、本当か? 本当にかっ? これで違いますとか言われたらボク立ち直れないよっ?』
「嘘つく必要がどこにあるのかが全くわかりません。私の体のことを考えて、でしたよね? …………えっと」
「
「あ、はい。晟さん」
「もちろん、その通りだ」
「ね? 言ったでしょう、小鳥さん」
『うん、本当に本当だった。安心し……』
「だが、俺が彼女に好意を持っても別に変ではないと思うのだが?」
「……えっ」
「えっ!?」
「まぁ、兄様ったら…」
『……あぁん?』
ちょ、小鳥さん怖い…、と珠璃が小さく声をあげたが、小鳥の視線は珠璃を抱き上げている男を見ており、珠璃はすでに視界に入っていないらしい。自分のお腹の上にいるのに素通りされるってどんなよ、と内心で自分にそう呟きながらそれよりも、爆弾を落とした男のことが気になって仕方がない。
どこでどうなったら自分に好意を寄せられるのか、珠璃には全くもって理解不能である。
『とりあえず、珠璃を離せこのやろー』
「だめだ、彼女はけが人だ」
『それでもお前がそばにいるよりはよほど安全なところに連れて行くわ!』
「小鳥のあなたがどのように? 無理は言わないでくれないか?」
『この形だから舐められてるのはわかるけど……っ! ちょっと舐めすぎじゃないか!?』
「小鳥であるあなたが俺の好敵手だということは理解しているつもりだ。だが、俺だって彼女に触れていられるこの好機を逃したくないのが本音なので」
すでに話に置いていかれた珠璃はどうすればいいのかまったくわからない。いや、そもそもの話が悪かったのかもしれない。そうだそうに違いない。と、現実逃避をしてみるけれど、今現在も晟の腕の中にいるという事実はまったく変わらず、珠璃は己の顔がじわじわと赤くなっていく事に気づかない。
今まで片田舎で暮らしていて、まったくと言っていいほど男の人との接点はなく、あったとしても仕事上で必要なことだったり、本当に“必要最低限”の接点しかなかった珠璃は、こういう時、どんな反応をすればいいのか、どんな言葉をかければいいのか、わからない。
じわじわと顔が赤くなり、それと一緒に俯いていく珠璃にハッとしたのは、やっぱり小鳥で。
珠璃の様子を認識し、小鳥がやったのはとりあえず敵である晟に攻撃を加えることであった。
『けだものーっ!!』
そういって、その小さいけれど、確実な武器になる嘴で、思い切り晟をつついたのだった。
そして、今朝のあの言葉に戻るのである。
『とりあえずなんだっけ!? 【春の宝珠】!? そんなもの! 気配を辿ればなんとかなるんじゃないの!? 青龍!』
「えっ、あ、いや……その気配も辿らないから困っているのですが……」
『役立たずだな!? というか、晟とやら! 地味にこっちに近づいてくるな! 珠璃が汚れる!!』
「……近くにいたいのだが」
『断る!!』
「………私のことを勝手に決めている小鳥さんは、本当に何目線なの?」
すでに保護者的な立場にいるような気がしなくもないんだけれども、と思いながら珠璃はてくてくと歩く。珠璃のすぐ真隣には春嘉が立っており、春嘉の隣には鈴が、そして鈴の向こう側に晟が立っている。横並びに並んだのは、少しでも距離を確保しようとする小鳥の無駄な努力だった。ちなみに、春嘉が珠璃の隣にいるのは少しでも晟の視界に珠璃が入らないようにするための工夫、らしい。無駄な努力だよね、これ、と珠璃は本気で思いながらも、それでもとりあえず小鳥の好きなようにさせるが吉と思い、もう黙っていようとただ黙していた。
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