第19話
◯
そうと決まればあとやる事はほとんどが分かりきっていることである。
珠璃はとりあえず動きやすい服装をと希望を出し、それに着替えて早速行こうと言ったのだが、それには二人と一匹に全力で反対された。鈴には無理やり寝台の上に寝かされて、抵抗するのなら身ぐるみを剥ぎますとまで言われてしまい、春嘉は笑顔でおとなしくしていてくださいと無言の圧力をかけてくる。小鳥に至っては珠璃が無理してこれ以上怪我がひどくなったらどうするのー! と涙をホロホロと流しながら訴えてくる始末。
結局、珠璃は体のことを考えて静養することとなったのだった。
連れてこられた屋敷の一室で珠璃が眠りに入ったのを確認して、二人と一匹はそっと部屋を後にする。
「……ようやく深く眠ってくれたか」
「なかなか眠ってくれませんでしたね。なんか、微かな音も立てちゃいけないって感じで、こちらまで緊張してしまいました」
『どうでもいいけど、ボクはもう一度珠璃のそばに戻るよ』
「いや、ダメだ」
『はい?』
小鳥は二人を見送るためにそばまでついてきただけだったため、そこそこの距離にきたところでそのまま珠璃の元に戻ろうと言ったが、それを拒否した輩がいた。
『……いや、ダメって言われても戻るけど……。ちなみに、なんでダメなの?』
「小鳥はずっとボクという一人称を使っているだろう。ということはオスということだ。オスを女子と同じ部屋に寝泊まりさせるわけにはいかない」
『えー…………、面倒くさいよ、青龍……」
「……ワタシもちょっとどう言えばいいのかわかりません」
『珠璃のそばにいたいだけだし、それに珠璃はぼくがそばにいたほうがよく眠れるって言ってくれたもん。だから戻る!』
「ダメだ! 絶対にダメだ!!」
「ちょ、春嘉様、何もそんなにも否定しなくても……。それに、相手は小鳥ですよ? 何に対しての警戒をしているのかさっぱりわかりません」
「鈴もちょっと黙っていなさい。お前はわたしの味方ではないですから!」
「この場合、訳のわからないことをいきなり申している春嘉様の味方になりにくいだけですよ……」
そう言ってため息をつく鈴をそのまま無視し、春嘉はぱたぱたと羽ばたいている小鳥をわしっと掴む。
『ぎゃあああぁっ!! 何するーっ!?』
「君は今日、わたしの部屋で共に眠ることとなった。決定事項だ! 逃げられないようにするためにはこう掴むのが一番最適かと思ってな」
『わし掴むなっ!! なんなんだよお前ーっ!!』
「青龍だ」
『そういうことじゃないってわかってるよな!? えっ!? わかってるんだよね!?』
「さ。いくぞ、小鳥」
『やめろーっ、はーなーせーっ!!』
小鳥の叫び虚しく。結局小鳥は春嘉に強制連行され、あまつさえ、鳥籠の中に閉じ込められてしまい、次の日の朝まで珠璃と会うことが許されなかったのだった。
「……ねえ小鳥さん、朝のあれは一体なんだったの?」
『早く! 早く問題を解決しよう! そして国を出よう! 次に行こう!! ボクあいつ嫌い!!』
全く答えになっていない言葉を返されて、珠璃はうーんと唸る。
朝、いつもだったら小鳥が珠璃に頬擦りをして起こしてくれていたのだが、今日はそんな感触ではなく、何故かゆさゆさと揺り起こされた。珍しく人型になっているのかと思って「小鳥さん……?」と寝ぼけた声で問いかけたが返事はなく、不思議に思ってうっすらと目を開けて周りの状況を確認した珠璃の視界に飛び込んできたのは昨日、珠璃を助けてくれたらしい男性がちょっと困った表情をしながら珠璃を見つめていた。
自分の視界にほとんど面識のない男性が映り込んだことに思考が停止し、珠璃は混乱する。
珠璃を起こしにきたその人物は、何故自分がこんなことをしているのだろうと表情に浮かべながら、「朝だ」と一言告げてそのまま退室して行った。
理解が追いつかないうちに全てが終わった珠璃は、理解がおいつた後もどうすればいいのかわからなくなったけれど、とりあえず着替えようと思考が判断したため、さっさと着替えることにしたのだった。
部屋の外では先程の男性が珠璃が出てくるのを待っていたらしく、珠璃は少し気まずい思いをしながらも「おはようございます」と小さく挨拶すれば、「ああ」と短く返事が帰ってきた。
静かな人だなーとぼんやりと思っていると、珠璃の視界が突然高くなった。「……えっ?」と小さく声を出したが、それに答えてくれる声はなく、代わりに自分の体が宙に浮いているような感覚に襲われる。心なしか、膝裏と背中に人の腕のような感触もあるように気がしなくもない。
何が起こっているのか全く理解の追いつかない珠璃を置いて、珠璃は自分の意思ではないのに、体がどんどんと廊下を進んでいることに気づき、そして全てを理解した。
「ちょ、あ、あああ、あのっ!?」
「なんだ?」
「いやいやいやいや。おろしてください自分で歩けますおろしてください!」
「鈴がまだあなたの体は傷だらけだと言っていたからだめだ。早く直すには極力自分で動くことを少なくしなければ」
「いっ、いやいやいやっ!? 大丈夫ですそのくらい!?」
「だめだ」
何度言っても結局彼はおろしてくれることなく、珠璃は公開処刑を受けているような気分になりながらそのままその揺れに身を委ねるしできなかった。
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