第17話

「私を助けようとしてくれていた行動も声も、私はちゃんと聴いています。だからそんなに自分を責めないでください。あなたの行動を理解している人は存在するのですから」


「……珠璃……」


「鈴さんだって、そういう春嘉さんを知っているから、私を助けてくれたのでしょう? あなたのお兄さんがたとえ春嘉さんの護衛を務めている人だからと言って、無闇矢鱈に手を差し伸べてくれるほど優しい方ではないでしょうし」


「珠璃さん、ワタシだってちゃんと助けることはしますよ?」


「例えばそれが敵なら、死なない程度の治療をしてまた拷問にかける、とか?」


「わー、ここまで行動読まれるとなんか悲しいなー」



 そう言いながら鈴がそっと視線を逸らしているのを見て、珠璃は思わず苦笑を漏らす。ああ、こんなところで、昔の記憶が役立つとは思わなかったなと考えながら、少しだけ体を動かす。


 それに反応した小鳥が鳴き声を上げて珠璃の行動を牽制する。



『珠璃!! 動かない!!』


「……小鳥さんは、もうちょっと私を自由にしてくれてもいいんじゃないかな……?」


『無茶を許すとなんか後々後悔しそうだもん。絶対ダメ!』


「わー、ある一点の信頼が一切存在しないのもかーなしー……」


『君ね、自分の行動を顧みてから言ってくれないかな? ボクが心配するのは道理だと思うよ?』


「……」



 たしかに無茶をした、という自覚があるため珠璃は何もいえなくなりそっと視線を下にずらす。頭の上にちょこんと乗っている小鳥はそんな珠璃の行動を理解しているのか、ふん、と鼻を鳴らして珠璃の頭の上で偉そうにその小さな胸を逸らしている。


 小鳥のおかげで居心地の悪い空間になってしまい、珠璃はどうにか現状の空気を変えようとした。



「……珠璃、その小鳥の言う通り、あなたはまだ動かないでください」


「……春嘉さん?」


「鈴の言う通り、わたしは力を示すことができなかった。己の力に溺れることが怖かった。けれど……そのせいで違う誰かがこうして怪我をおってしまうのは話が違いますよね」



 少し落ち込んだ様子を見せて春嘉がそう口にするのを、珠璃は静かに耳を済ませて聴いている。焦げ茶色の瞳で、春嘉の姿をしっかりと見つめている。




「……申し遅れました。わたしはこの『東春国』の守護神・青龍=春嘉と申します」



 そう言って、春嘉は珠璃に事情を話し始めたのだった。






「青龍に選ばれたものは、先代の青龍からあるものを受け継ぐのです」


「あるもの?」


「はい。それは【春の宝珠】と言われるものです。知っていると思いますが、『中の国』を囲うように存在している四つの国は【四神】が頂点に立ち国を守っています。この東の国はわたし青龍が。南の国は朱雀、西の国は白虎、北の国は玄武。この四つの国はそれぞれ【四神】が守り、そしてその【四神】に由来し、季節が一つしか存在していません」


「あ、それは小鳥さんから聞いたような気がします」


「小鳥から……ですか……。まあ、いいでしょう。ここ『東春国』は国名にもあるように春を司る国であり、わたしは春を守護する存在でもあります」


「【四神】がそれぞれ国と季節を守っているんですよね?」


「ええその通りです。朱雀は夏、白虎は秋、玄武は冬とそれぞれ季節を守りながら『中の国』に季節を届てもいます」


「昔に教えてもらったような気もするような言葉……うろ覚えすぎて自信ないですけど……」


「……結構一般常識なんですがね……? 珠璃はちょっと特殊な人ですね?」


「まあ生い立ちがちょっと特殊なのは認めます。なので、私の常識は信用しないでくださいね」


「……わ、わかりました……」



 それはそれでどうなのだろうと思いはしたが、春嘉はとりあえず話を進めるべく一度咳払いをして気持ちを切り替える。



「えっと、先ほども申しましたが、わたしが青龍になった際、受け継いだ【春の宝珠】はこの国を“常春”に保ってくれるいわば秘宝と言われるものです」


「……まさか」


「そのまさか、です。わたしが就任してからそこそこの年月が立っているのですが、今年、突然に【春の宝珠】が何者かに盗まれたようなのです」


「盗まれた!?」


「はい」


「そんな盗みやすいところに【春の宝珠】を管理していたんですか? この国の警戒態勢はどうなっているんです?」


「……珠璃。一応言っておきますが、この国の警備が不十分だったということはありません。そもそも、【春の宝珠】はわたしが基本的には常に身につけいたもので、この身から離すのは風呂の時か就寝の時くらいです」


「……それで無くなったというのなら、あなたがどこかに落としたのでは……?」


「あ、やっぱり珠璃様もそう思います? ワタシも兄も実はそれを一番疑っています」


「あなた達兄妹はわたしをなんだと思っているんですか……」



 ガクッと肩を落とした春嘉は本当に落ち込んでいるらしくどんよりとした空気を感じられてしまうほどである。

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