第15話
「この国にとどまって、私は私の欲しいものが手に入りますか?」
「……それは、」
「私は目的があって旅をしているんです。その目的を果たさなければいけないんです。そうしなければ、私は私の願いを
「……珠璃、あなたは……」
「だから、ください。私に。【四神】に認められた証を」
「……」
「私は、言葉にしたい願いがあるんです。そのために私は旅を始めた。そして【四神】の紋章をもらわなければいけない。……春嘉さん、私に、ください」
懇願する瞳が春嘉を見つめる。本気でその言葉を言っているとわかる。本来ならば、春嘉もその言葉に応えてあげたい。しかし、今はそれができるような状況ではない。だからこそ、否定の言葉を口にした。
「……あなたにも事情というものがあるのだろう。それは理解できる。だが、こちらにも事情というものがある。それが故に協力はできかねるのだ。……すまない」
そう言って、頭を下げる春嘉をただ見ているしかできない珠璃は、どうしようかと考えを巡らせる。
このままこの国にいても、珠璃の望む物はもらえない。そうなると、珠璃の願いを言葉にする機会を失ってしまう。それだけは、どうしても嫌だった。ならば選択するのは一つのみ。
「……この国から、一時的に出ていきます」
「!? 珠璃!?」
「このままここにいても私は私の望みを叶えてもらえないのはもう理解しました。春嘉さんだって、私の願いを叶えてあげられないとはっきりと言ってます。なら、私は進まなければ。ここにいて、時間を無駄にするよりも先に進んでできることをしたいと思うのは当然でしょう?」
「……っ、ですが、あなたはまだ傷が……!」
「そんなことを気にしてもいられないくらい、私は私の望みを言葉にするための機会を無駄にしたくないの」
そう言って、珠璃は真っ直ぐに春嘉を見つめる。そのあまりにも真剣な瞳に、春嘉も何もいえなくなってしまいその場でグッと口籠ってしまう。
そんな二人の様子を見ていた少女が、そっと声を上げた。
「……春嘉様、もういいのでは?」
「!」
「この人が敵ではないともうわかったことですし、協力してもらいましょう。そうすれば、事態が早く解決する気がします」
「
「このままウジウジとしていても何も始まらないし進まないのは一目瞭然。ただ怠惰にことを済ませようとしているのは、気が長い考えというわけではなく、あなたが諦めているからでしょう。その任に就任してしまったからには、全力でやっていただかなければこちらだって困るのです」
「……っ!」
「あなたは優しすぎます。だからこそ、このような事態に陥ったとご理解ください」
少女――鈴は春嘉を見つめる。その鈴の視線に耐えられたなかったのか、春嘉がそっと視線を逸らしたのを認めて鈴がそっと息を吐き出す。そして珠璃に向き直った。
「――我君が、大変失礼な真似をいたしまして、申し訳ありませんでした。珠璃様」
「!?」
「ワタシは、春嘉様の護衛に付いている者の妹です。まぁ、あなたをここまで連れてきた兵士のですけどね。訳あって素性を伏せていたこと。申し訳ありませんでした」
ペコリと頭を下げて謝罪を口にする鈴に珠璃はどう反応すればいいのかわからなくてそのまま無言を貫く。通常であればその無言は怒りを内包しているからだと思われるはずなのだが、鈴は下げていた頭を上げて珠璃を見、珠璃の瞳にその感情が読み取れなかったのを認め、そのまま話を続けた。
「珠璃様、もう一つ謝罪を。兄があなたを無理やりここに連れて来たこと。本当に申し訳ありません」
「え? あ、気にしなくても大丈夫よ」
「いえ、そもそも助けようとしていたはずなのに何故あんな乱暴なことができたのかと未だに疑問でなりませんわ。もう一回くらい締めておこうかしら……」
「……あのね、そんな実害があるわけではなかったのだから本当に気にしないで。それに鈴さんの話を聞く限り私をあの場から助け出してくれたようだから、むしろ私は感謝の言葉を伝えたいわ」
「いいえ! 男が女を守るのは当たり前です! ね、そう思いますよね? 春嘉様?」
「……」
今ここで春嘉に話を降るのかと正直に珠璃は思ってしまったが、彼女は敵に回してはいけないと既に理解しているためそのまま我関せずでそっと視線を逸らしてしまう。それは、珠璃の頭の上に載っている小鳥も同じだったようで、こちらは珠璃よりもあからさまに体を動かして完全に背を向けてしまっているため、鈴に水の中に叩き落とされたのが相当応えたらしい。
たしかに結構な勢いで落とされていたけれど、もしかしたら水が嫌いなのかしらと思いつつ、珠璃はそうやって現実逃避を測っていたのだった。
「……鈴、こちらにも事情があるのはお前もわかっていることでしょう?」
「そうですね。ですが、それにある意味巻き込まれ、怪我までさせられた人をこのまま放っておくこともできないと考えますが?」
「それでもだ。わたしは、国を守らなければならない。ここまで弱体化してしまったのは一重に……」
「あなたのその性格のせいでしょう」
「……」
鈴の言葉に否を唱えることができないのか、春嘉はグッと押し黙ってしまう。その様子を見ながら、今までの会話を聴いて、珠璃は確信したことが一つだけ存在していた。
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