第8話
『……ボクは、まだまだ弱い存在かもしれない。それでも、君だけは守ると誓ったんだ。だから……だから、珠璃……安心してね……何があっても、どんなことになったとしても、ボクは、絶対に珠璃の味方だから……』
そう呟き、少年は珠璃のすぐ隣で珠璃と同じように小さく丸くなって、珠璃と共に眠ったのだった。
◯
朝目が覚めて珠璃は少しの驚きを覚えたけれど、見たことのある少年の顔にホッと安堵する。流石に知らない人間だと悲鳴を上げてしまうけれど、目の前にいるのはあの小鳥さんだ、と認識できれば安心でしかない。少年の寝顔を見つめながら、珠璃はそしばらくその場から動くことをしなかったけれど、遠くから近づいてくる気配に体をそっと起こす。
その気配が昨日の青年の気配だと理解した珠璃は少し乱暴に小鳥を叩き起こし、姿を変えさせる。自分の肩に小鳥を乗せて、青年が部屋に入ってくるのを待ち構える。
扉の鍵を開錠して入ってきた青年は、待ち構えていた珠璃に流石に驚いたのか、その萌黄色の瞳を見開いて固まっている。
「おはようございます。お兄さん」
朝の挨拶を普通にしてくる珠璃に困惑を隠しきれなくて、青年は戸惑いながらも同じように「おはようございます」と何とか言葉を返した。彼女の肩には、ウトウトとしている小さな小鳥が乗っかっていて、青年はそれを見て少しだけほっとした息を吐き出す。
その様子に違和感を覚えながらも珠璃は青年に言葉をかける。
「一晩、あなたのいう通りここに泊まったわ。ここから出して」
「あなたの疑いは晴れていないと言ったでしょう」
「……あなたが何に対して私を警戒しているの私にはわからない。けれど、私はあなたに対して何もしていないわ。これ以上、理不尽を私に押し付けないでくださいませんか?」
「理不尽を押し付けていることは理解している。そのことに対しては謝罪をいたしましょう。ですが、あなたを自由にするわけにはいかないのも事実です」
「私は、一刻も早くしなければならないことをしたいだけなのです」
「それは【四神】が一人、青龍から紋章をもらうことですよね?」
「……分かっているのなら、開放してくださいませんか? 私のような身分の娘が、そのように尊きお方に会う確率などたかが知れているのですから。小鳥さんは今この国は少し問題が起こっていて、うまくいけば城下町で青龍に出会えるかもしれないと言っていたのです。私はその機会を無駄にしたくはないの」
「青龍に会いたいのならば、私が橋渡しになりましょう。それでいかがですか?」
「あなたの手は借りたくない。借りを作りたくないの」
「随分とはっきりと……ですが、私と手を組めば、この国のどこにいるかもわからない青龍を探すよりよっぽど効率よく出会えるのでは?」
「……」
珠璃は、目の前にいる青年を睨みつける。
目の前の青年が言っていることは理にかなっている。たとえ朱璃が懸命に探したとしても、会える確率はとても低い。たとえ会えたとしても会話ができるとも限らないのだ。それを考えれば、青年の言葉に頷いた方が目的を早くに達成できるはずなのに、なぜか、青年は珠璃にではなく小鳥に視線を向けているように感じられてあまりいい気分ではない。
すっと珠璃が体をずらして小鳥を青年の視線から隠すように動く。それに気づいた青年は、それでもにこりと微笑み珠璃を見た。
「どうでしょう? あなたにとっては利点しかないのでは?」
「…………今すぐ、紋章をください」
「無理ですね」
「どうして?」
「青龍に会いたいのでしょう?」
「……」
「ならば、わたしの協力もしてくださらなければ釣り合わないと思いませんか?」
「私は、今目の前にいる【あなた】に頼んでいます」
「ではもう一度はっきりと申し上げましょう。無理です」
萌黄色の瞳を睨みつける。そういわれることなどわかっていたけれど、駄目元で聞いてみたかっただけだ。
珠璃はため息をつき、寝台の上から立ち上がる。その振動に肩に乗ってうとうととしていた小鳥が「ピィ…?」と小さく鳴いたのを聞き珠璃は指先で小鳥を撫でる。
それに気持ちよさそうに目を細める小鳥を見ながら、珠璃は青年を見た。
「あなたからの信頼を得るために、私は何をすれば?」
「話が早くて助かります。では、まず最初にその小鳥をこちらにください」
「お断りします」
「…………」
「私自身の身ならば、たとえどのようなことに使われようとも何も言いませんが、この小鳥さんに関しては一切、要求は受け付けません」
「どれほどこちらが強硬手段に出ても、ですか?」
「たとえこの命落としたとしても、この子だけは逃します」
意志の強いこげ茶の瞳で見つめられ、青年はしばらく珠璃と睨めっこのような状況が続いたけれど、その意志の強さに、本当に命を擲ってしまいそうな危うさを見つけ、ため息をついて諦める。
「わかりました。あなたと小鳥を引き離すようなことはしないとお約束します。ですが、あなたには全力で手伝ってもらいますよ」
「……わかりました」
何を手伝わせるつもりなんだと思ったが、受けてしまったことだし、これ以上何かを言っても仕方がなければ、何を言われても動じない自分を理解しておとなしく言葉返した。
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