純粋な回路

第17話

◆Mrs.Mikami side.



「近頃の主人は疲弊しきっておりました。

アンドロイドのわたしを本気で愛する程に。


主人は開発者ですので、わたしへのプログラムを削除したとしても、最愛の奥様と姿形が同じわたしを処分出来なかったのだと思います。


それ故に絶望した可能性が有ります。

わたしを遺し一人でこの世を去るのは憚られ、形だけでも絞殺にしたかったのでしょう。

ですから…」



亡骸となった主人の頸動脈からしぶいた血が、シャビーな白いダイニングセットや窓枠を赤く染めました。


主人、基い、オーナーの死で通報するシステムに則って駆け付けた警察と

プロトタイプ故、主人の経営していた医療用アンドロイド制作会社『株式会社ウィンクルム』の専務がいらっしゃいました。



「…何がなにやらだ。ちょっと待って下さいね。あなたは奥様に似てらした?」


若い刑事が血塗れの窓辺に顔をしかめておりましたが、わたしの言葉に反応を示しました。




「えぇ。わたしは主人と6年前に事故で死別した奥様に似せて作られましたの。

精神的な病の治療を目的としたアンドロイドの試作品ですわ。

通常品は決まった姿形で販売されますが、カスタムオーダーも受け付ければ富裕層受けすると思われます。


精神疾患の為ですから、こういった心中も対応できるよう

首を閉められたら運動機能を1時間停止するのです。

お見せした通り、音声マイクと動画撮影のみ行われていますの.」




「社長は仕事熱心な職人気質でした。美羽夫人が結婚から1年で亡くなられた時は憔悴も見せず、仕事に打ち込んでいらしたんですが

やはり堪えていたんだろうと…。」


専務が主人の様子を話しました。



「アンドロイドと心中だもんなぁ。精神的な治療って…寧ろこれ、失敗な気もしますね。…にしても奥さんそっくりだ。」



私がお見せした美羽さんの写真とわたしを見比べて、若い刑事が驚嘆をあげたのは、似せて作られましたので当然です。


人との区別なんて殆どできない程精巧な作りですが……。

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