第7話

「あなた、酔ってらっしゃるの?」

「…少しばかりね。」


カットソーの裾から入り込む指。少し熱を帯びている様。



「いけないわ。あなた.」


これ以上抗う力を強めれば、主人を傷付けてしまい兼ねない。

冷静な回路で思考を巡らせ、主人に訴えました。


「止めて頂戴。私は….」


幾度も放った懇願にも似たわたしの声を、主人は聞き入れてくれました。



「…すまない。」


そう繰り返し、繰り返し、声を殺して泣きました。


主人の背中を撫でながら、謝罪の理由を探しました。



しかし夫婦なら求め合うことは当然で。


当然さえ叶わぬ主人は、今にも壊れてしまいそうで。



「ミハネ、愛してる。愛してるんだ。」

「わたしもよ。あなた.」



抱き締めてどうなるものでもないと分かっていながら



両の腕をもって


わたしは主人を抱き締めたのです。



皮肉な事に、この日、この出来事が


この穏やかで、優しさと愛に溢れる生活の歯車が狂うきっかけとなったのです。

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