第90話

「行きましょっか。双葉さん」


「う、うん……」




とにかく決まってしまったものは、しょうがない。


筒地君と一緒に店を出て、配達先のお宅に向かう。



佐藤さんの家はお店から近く、8分ほど歩いた先にある洋品店のところだ。



きっと普段の感じからすると玄関先で渡して終わるだろう。



急いで向かって、すぐにお店に帰ればいい。



気まずい時間なんてほんの僅かだ……、と軽く計算をしながら、届け物を持って筒地君と一緒に歩いていく。




「こっちです?」


「あ、うん」


「今日は人が多いですね」


「だね」




買い物客で賑わう石畳の通り道。


筒地君が話を振ってくれているが、私はまともに返せず軽く相槌を打つばかり。



数歩ばかし離れた距離が心の距離を表しているかのよう。


全然、笑えない。



でも、筒地君は何故かご機嫌だ。



キラキラスマイルを無限に放ち、すれ違う女の子から「あの人カッコイイ〜」とキャーキャー騒がれている。

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