第84話

「祖父さん達にも考えがあるって言っただろ」


「ないわ。頭の中は空っぽよ」


「おいおい。いくら何でもその言い方は……」


「いっそ、老人ホームの見学にでも行った方がいいんじゃない?」




大真面目にお父さんの顔を見つめ、念のために持参した老人ホームの資料を渡した。



言い聞かせるようにお父さんの肩に手を置いて、ここがいいと思う……、とオススメの施設を助言。



もちろん、断られるのはわかってるよ。



でも、いっそ、そうして欲しい。


そうすれば話が丸く収まる。




「見学なんざせんでいい。まだまだ先の話だ」


「善は急げと言うでしょう」


「急がば回れとも言う」


「じゃあ、もういい。お父さんには頼まない」


「おぉ、怖っ。日に日に母ちゃんに似てきやがって」




普段、亭主関白で接しているのに、お父さんはお母さんや私を恐妻扱いして笑う。



そのお母さんから睨まれていることにも気付かず。

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