第76話

状況はあまりかんばしくないのに、えらくご機嫌。



唇に弧を描いてほがらかな表情をしている。



普段の不機嫌な皐月の姿からは想像もつかないくらい。



目が合っただけで喧嘩になったことだってあるのに。




「ま、悩むのは対決の内容を聞いてからにしろ。双葉の祖父さんのことだから、明日には詳しい話をしてくるだろうし」


「うん……」


「きっと新しいレシピを考えてこいとか、そんな感じだと思うわ。新作を出したい、って悩んでたから」




そう言って皐月は「どんなお菓子にするかな〜」と、楽しそうにリビングの戸棚から仕事用のノートを取り出した。




このノートは皐月が帰ると毎日開いてるノートだ。



学んだことを書き記しているらしく、うちの店のレシピとかをメモしてある。




いったい何度開いたのか分からないほど使い古してクタクタ。



戸棚には他にも似たようなノートがずらりと沢山並んである。




ざっと見ても八年分。


もしかしたら、もっとかも。



うちのお店に来る前から、お父さんとかお祖父ちゃんにコツを教えてもらって書いていた気がするし。

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