第75話

皆、きっと勘違いをしている。



お店という狭い枠の中にいる所為で、肝心なことをすっかり忘れしまっている。



選ぶ権利があるのはコチラ側だけじゃなく皐月の方にもあるってこと。



跡継ぎにどれだけ価値があると思っているのか知らないけど、私からすれば切り捨てられるのは皐月じゃなくて私の方だ。



それが嫌でしょうがないんだから、この夫婦のようで夫婦じゃない結婚生活の中にも、何か築いていってるモノがあるのかも知れない。



穏やかな表情を浮かべた皐月を見ていたら、そう思う。




「勝ちにいくに決まってるだろ」


「どうやって?」


「練習量を増やすんだよ」


「ただでさえ、忙しいのに?」


「別に構わねぇってか全然平気」




本当に大丈夫なのかと心配するが皐月は平然としている。


今でも時間の配分的にカツカツなはずなのに。




「それより、なんでそんな暗い顔をしてるんだよ」


「だって……」


「俺が負けると思ってやがんのか」


「思ってない!」


「んじゃ、別に何も心配することはねぇだろ」




飲んでいたお茶をテーブルに置き、皐月は当たり前のように鼻で笑った。



不安だった私の心のモヤモヤを拭い去るように。

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