第71話

温度差を感じて心が冷える。



最初からわかっていたことだけど、私と皐月は結婚に対する思いが本当に違うんだ、って実感してしまう。





「何それ。バカを言わないで」


「バカって、お前……」


「私は跡継ぎになってくれるなら誰でも良かったわけじゃないっ。皐月しかいないと思ったから皐月と結婚をしたの。その辺、勘違いをしないで!」




だから、狼狽えた皐月にバシッとテーブルを叩いてキッパリと言い放った。



凍りそうな心臓を熱で溶かすように。




だって、腹が立つんだもん。



“一緒にお店を継ぐなら皐月しかいない”


“皐月以上にそう思える人なんて、この先現れやしない”



そう思ったから私は皐月と結婚したのに、そんな何とも思ってないって態度で返すなんて。




そりゃね、跡継ぎのことだって関係はあったよ。


だけど、誰でも良かったわけじゃない。



なのに、それをお祖母ちゃんだけじゃなく皐月まで否定しないで欲しい。



あの日の私の思いを壊さないで欲しい。



そんな気持ちでいっぱい。




しかし、皐月は面食らった顔をしている。



動揺したように瞳を揺らして。時が止まったように固まって。信じられない、と言いたげに口を閉じた。



どうして、そんな顔をするのよ。



“今、初めて知った”みたいな反応をしないでよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る