第60話

「心配しなくても祖母さんは騙されてねぇよ」


「えー。入ったばかりの人に店を任せるなんて、正気の沙汰さたとは思えないんだけど」


「別にそこまでおかしい話じゃないだろ。筒地は経験もあれば腕だっていいんだし」


「そうだけど。てっきり二号店は皐月が任されるものだと思ってたから……」




店がある通りを抜けて住宅街。


双葉は不満げに視線を落とすと「納得がいかないなー」と子供みたいに口を尖らせた。




溜め息交じりに道端の石ころまで蹴飛ばして、本当に納得できないって顔だ。



きっと、頭の中は祖母さんへの不満と筒地への疑問でいっぱい。



はたから見たら拗ねているようにも見える。




「お前、そんな二号店で働きたいのか」


「そうじゃない。私はただ、皐月のこれまでの頑張りが否定されたようで悔しいの」


「別に祖母さんは否定なんてしてねぇだろ」


「しているようなものよ。これ見よがしに筒地君を贔屓ひいきしちゃって。店に取って本当に必要なのは誰か、ちゃんと見てないんだから」




肩に引っ掛けた鞄の紐をギュッと握り締め、双葉は悔しそうに眉を顰める。



なんで、そんなに悔しそうにしているんだか。

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