第52話

「ほら、食え」


「わ、最中だ」


「お前、好きだっただろ」




一通り作業も終わったし、落ち込む双葉を元気づけようと好物のお菓子を差し出す。



今日初めて親父さんから合格点を貰った、店でも人気の“秋月しゅうげつ”と名付けられた最中もなかだ。



パリッとした生地の中に粒が残った栗の餡が入っていて、かなり美味い。



何気に双葉の一番好きなお菓子だったりする。




渡した最中もなかを口に入れた双葉はコロッと機嫌よく笑った。



昼間、筒地に見せていた表情とは少し違う、気が抜けたような笑顔だ。



いつものキチッとした双葉じゃなく、子供に戻ったみたいにフニャフニャしている。




「美味いか」


「うんっ」


「そうか」




あまりにも嬉しそうに笑うから、こっちも釣られて笑顔になる。



そうそう。お前はそうやって美味いもん食って笑ってりゃいいんだよ。



そうするためにお前と結婚したんだから。

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