第51話

そのゼリーはいかにも初めて作りました!って感じのやつで、味はまぁ普通というかメチャクチャ美味いってわけでもなかった。



ただ、そうやって自分を思いやって作ってくれた気持ちが嬉しかったから、そのときの俺はアホみたいに喜びながら食べた。



珍しく素直に「ありがとう」とお礼を言いながら。




そしたら、やけに照れてた。



普段とは別人みたいに、しおらしく。



恥ずかしそうに頬を染めて『早く元気になってね』と、はにかんでた。




多少なり思い出補正が入ってるとはいえ、あのときの双葉を思い出すと、無性に可愛く感じる。



もう一回見てぇな。見せてくんねぇかな……と、親父さんと話している双葉を横目に見ながら心の中で思う。



見たきゃ照れさせりゃいいのはわかっているけど、何をやったらそんな顔をするのか謎。



元気になったら、またいつものように喧嘩腰な双葉に戻っちまったし。




でもまぁ、いつかは見れるだろう。



こいつの中身はあの日と同じままだし。



忙しい日々が続くと必ずと言っていいほど、あの日より少し美味くなった桃ゼリーが冷蔵庫に入ってるのを見るとそう思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る