第50話

「先に家へ帰ってろ」


「いい。私も手伝う」


「つっても、もう特に何もすることはないし」


「じゃあ、終わったら帰る」




待ってても疲れるだろうと思って声を掛けたが、双葉は頑なに首を横に振る。



くまでも最後まで店に残るつもりだ。



そのくせ居心地が悪そうに視線を彷徨わせながら、そわそわしている。



一緒に残っていたジイちゃんが「気にせんでいい」とフォローを入れたが、あまり効果はなさそうだ。



暗い顔を浮かべたまま。




ホントこいつは……。


気が強いわりには気にしすぎるというか。



長年の付き合いだけど、昔からこういうところがある。




確か中学生のときだったか。



双葉の風邪が俺に移ったときも、物凄く申し訳なさそうな顔をして見舞いにきた。



しかも、わざわざ手作りの桃ゼリーを持って。

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