第19話

「……お前が喧嘩ばっか吹っ掛けてくるから、無駄に疑われただろ」




蚊の鳴くような声でボソッと、されどハッキリと、隣の男が発したクレームが私の耳に聞こえる。




なんですって⁉と睨めば、ふてくされた顔をした皐月と目が合った。



チッと舌打ちされたから、負けじとコチラもやり返す。




「勘違いしないで。喧嘩を吹っ掛けてくるのは、いつも皐月の方でしょ」


「いや、お前だ」


「何を言ってるの。一昨日だってお茶をれてあげたのに文句を言ってきたじゃない」


「そりゃ大事な書類の横に飲み物なんか置くお前が悪いんだろ」




ギャーギャー、ギャーギャー、小声で言い合い。



あくまでも作業場にいる皆には聞こえないように、近くで距離をしっかりと保って。




「だって机が散らかってて、置けるスペースがそこしかなかったんだもの」


「なかったからって書類の近くに置くな」


「はぁ?」



「倒すかも知んねぇとか考えなかったのか」


「何それ!その大事な書類を書いている最中に、お茶を持ってこいって言ったのは誰よ!」


「だからって他にもっといい置き場所があっただろ!」




じゃあ、いったいドコに置けば良かったのよ⁉とモヤモヤ、モヤモヤ。



くだらない言い合いが勢いを増していく。

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