第69話

「んっ…」



中に入ってくる感触を素直に受け入れたら、東郷は何も言わずに薄く笑った。


その顔がやけに優しくて隙間の空いた心の中に切ない何かが流れ込んでくる。



真っ白だった思い出を黒で濁して、真っ黒だった感情を白で濁して、結局は灰色。


中間の色に染まっている。



綺麗に跡形も無く端の方まで。


じわじわと塗り潰されていく。





「何かもう、やばい。授業中に思い出して悶えそう」



会いに行っても顔に出しちゃダメだよ。我慢出来なくなるから。と、そんな意地悪を言って。


自覚でもさせたいのか、耳たぶを舐められながら“先生”と呼ばれ、ぎゅっと目を閉じる。

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