第90話

ただ村田は私に怒ってるわけではないらしく。


やたらめったら優しい手付きで私を椅子に座らせると、血だらけだった顔や体をおしぼりで拭いてくれた。



そのおかげで血も止まり、感じていた吐き気や目眩が幾分かマシだ。



マスターも少し落ち着きを取り戻した様子で「とりあえず掛けとけ」と、カウンターからひざ掛けを差し出してくれる。




「ごめんね。2人とも……」


「いいよ。今更でしょ」


「そうだ。構わん、構わん」


「それより早く病院で見てもらおう」


「そうだな。その方がいい」


「……うん」


「すぐにタクシーを拾ってきてやるから。ちょっと待っとけ」




そう言うなり、マスターが慌てた様子で店の外に飛び出していった。



村田も私から離れてお店の戸締まりを始めてる。



テキパキと手際よく。

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