第85話
人間、限界ってものがあるのに……。
そんなのまるで存在しないかのように扱われている。
それとも人間だと思われていないんだろうか。
頭脳を持った愛玩ロボットか何かだと思ってる?
考えれば考えるほど腹立たしくて、頭の中が怒りで熱くなり、心が真っ逆さまに冷えていく。
ほんとバカみたい。
コイツのドコに愛情があるの?
探しても探しても見つからない。
愛の果てにあったのは痛みと暴力と悲しみだけ。
残ったのは憎悪の搾りカスだ。
こうなる前に、さっさと別れておけば良かったな。
周りの忠告を素直に聞いて、とっとと逃げ出せば良かった。
今さら嘆いても遅いけど、後悔するような気持ちでいっぱい。
しかし、運は私の味方をしてくれたらしい。
貴ちゃんは路地裏に転がっていたビール箱に足を引っ掛けて、私の腕を離した。
よろめいて咄嗟に手をつこうとしたんだろう。
壁に手を押し当てたまま、腹立たしげに箱を蹴っ飛ばしてる。
随分マヌケだが、私にとってはチャンスだ。
今しかない!と思い、急いで人混みに向かって走り出す。
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