第70話

「治郎くん。そろそろ行かないとアイスが溶けちゃうよ」




早く爆弾と離れたかったのか、それまで影を潜めていた村田が兄貴の肩を突っつく。



いつの間にか全員分のアイスがカゴに入ってるし、健全な関係のアピールはバッチリだ。



まぁ、既に健全な関係ではなくなったわけだけど……。



現在進行系で浮気をしているわけじゃないし、家には兄貴たちもいる。


お互い様ってことで今日のところは見逃して頂きたい。




「あ、悪い。伊織いおり。待たせたな」


「う、ん」




兄貴はざっとらしく村田を下の名前で呼ぶと、私の手からカゴを奪い「じゃーねぇ」とギャル子に手を振った。



いきなり名前で呼ばれた村田の顔は“?”でいっぱい。


兄貴も普段は私と同じで“村田”と呼んでるし。



でも、私は兄貴がそう呼んだ理由がわかる。



だって、いつも私が“村田”と呼んでるから。



何かの拍子に貴ちゃんの前で名前を出したとき、この場にいたのが村田だと貴ちゃんにバレないためだと思う。

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