第7話

“ガタンゴトン”


聞こえている音を文字で表すなら、まさにこれだと思う。


 

あれから数時間。


私たちは家に帰らず電車に乗っていた。



行先は不明。


乗ってから随分と時間が経ったが、まだ降りる気配はない。



すっかり日も暮れて外は真っ暗。


民家も少なく、光がポツポツある程度。



窓から見える景色からしてココは田舎かな。


駅のポスターで見た田園風景が瞼の裏に浮かぶ。



乗客は私と蜂谷だけだし、静か。


独特な空気感に包まている。



「これからドコに行くの?」


「さぁ?」


「気の向くまま?」


「適当かな」




尋ねたら蜂谷は軽いノリで答えた。


行けたらドコでもいいみたい。


とにかく、さっきから、ずっと頬を緩めぱなしだ。



ピッタリくっついて離れてくれない。




でも、そうなってしまうのも仕方がないかな。



ここに行き着くまでの間、お互いのことを色々と話したけど、蜂谷を取り巻く環境はかなり過酷なものだった。



彼は所謂、母親の不倫で出来た子供で、いつも肩身の狭い思いをしながら過ごしているそうだ。



本当の父親は母親の元恋人。


それも2人は蜂谷が生まれてからも、ずっと関係が続いていた。



蜂谷がその事実を知ったのは数年前。


母親の不倫が父親にバレたのと同時だった。



それまで優しかった父親は豹変し、蜂谷は毎日きつくあたられ、殴られ、酷い扱いを受けることになる。



だが、発端の母親と実の父親は知らんぷり。


別れて再婚したいと言っているみたいだが、意地になった父親が離してくれないんだとか。




それを私に話した後も蜂谷はヘラヘラ笑ってた。



だけど。


”親が子を選べないのと一緒で、子も親を選べないんだよ”と呟いた蜂谷はどこか物悲しげで。



”一緒に駆け落ちでもしようよ”と縋りつくように言った、彼の顔は真剣だった。




「ここまでの乗り越し運賃を払ったら、残り千円しかなくなるんだけど」


「じゃあ、次で降りよっか」


「急だね」


「だって1回改札を抜ければ、もう俺なしじゃ家に帰れないし」


「えー」




若干、不安になりつつあった私の手を取りながら、蜂谷は無邪気に冗談ぽく笑う。



しかし、目が本気だ。


心からそう思っているとしか思えない。

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