第6話

ただ、手を差し伸べてくれるなら掴む以外の選択肢はなかった。


藁にも縋る思いだから。




「じゃあ、助けてよ」




思わず食いついてしまった私に彼は無邪気な笑みを浮かべた。



子供みたいな笑い方だ。


見た目は、わりかし大人っぽいのに。




「うん。わかった。その代わり俺のことも救って」


「蜂谷のことも……?」


「今のままじゃ苦しくて溺れそうだから」




そう言って蜂谷は隣に来ると、真っ直ぐ私の顔を見つめてきた。


じっと視線を送り返せば、彼のヘーゼル色の瞳が、ほんの少し恥じらいの色を滲ませる。





「……何?」


「いや。久下の髪と目は俺と違って黒いな、と思って」


「まぁ、そうだけど」


「でも、心は俺と同じ。見えているモノも、未来も、全部、同じ色をしていると思うんだよ」


「……うん」


「そんな俺たちが混ざりあったら、どうなるのか知りたくない?」


「何それ?お誘い?」


「まぁ、そんなところかな」




首を傾げた私に、嫣然と笑いながら徐々に近付いてくる蜂谷の顔。



意思を持ったヘーゼル色の瞳が、戸惑う私の瞳を覗く。




同じ色って…、いったい何色だろう?


同じ色なら混ざっても変わらないんじゃない?と疑問に思う。



だけど、聞いたって蜂谷は答えを教えてくれないだろう。


押し付けるように重なった唇の温度で全てを察する。



こんな場所で……。


初めてなんだけど。



でも、まぁ、いっか。


蜂谷もきっと私と同じだから。




「“2人ぼっち”と思えば、寂しくないね」




日が暮れそうな寒空の下。


蜂谷の明るい髪が、縋るように私の不揃いな黒い髪に触れた。

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