第5話

「……ね。隣に座っていい?」




いっそ全て終わらせてしまおうか……と、考えていた私の耳に、繊細な少年の声が落ちてくる。



視線を動かして顔を見てみれば、同じ学校の男子生徒が、悪戯っ子みたいな表情で私を見下ろしていた。



同じクラスの蜂谷はちやだ。


ヘーゼル色の瞳が印象的な、可愛い顔をした男の子。



ドコかの国と日本のクォーターだと誰かが言っていた。



それを証明するように、彩度の高い茶色の髪が夕日を浴びて輝いている。




「お断りしますって言ったら?」


「泣く」


「泣くのか」


「しかも、ギャーギャー泣いてやる」


「うげ」




ちょっと嫌そうに顔を顰めたら、蜂谷は歯を見せて笑った。



それを見て、意外と明るい人なんだな……と心の奥底で密かに思う。




彼はクラスの中でも浮いた存在だ。


同じ教室になってから日が経つが、私も話すのは今日が初めて。



独特な空気感がある所為だろうか。


誰も彼に話し掛けない。


言ってしまえば私と同じ。異端な存在。




「その代わり”いい”って言ってくれたら、助けてあげるよ」


「助けるって?何から?」


「全部から」


「蜂谷が私を?」


「そう。俺を受け入れてくれたら、今いる地獄から外の世界に連れ出してあげるよ」




訝しげな表情を浮かべた私に怯むこともなく、蜂谷は両手を広げて曇りなく笑う。



随分と明るく言われたが、心の中は複雑。



だって、ね。


意味がわからない。



仲がいいわけでもなければ、話すのだって初なのに、いきなり助けてあげるって……。




新手のヒーローごっこ?


意図が見えず、首を傾げてしまう。



助けてくれるって本気で?


連れ出すって、どうやって?


疑問でいっぱい。

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