第3話
言われた悪口の内容はありきたりなモノだ。
好きな男の子を取られたとか、私が他の友達の悪口を言っていたとか、探せば毎日ドコかに1つは落ちてそうな、本当のようで嘘っぽい微妙な話。
だから最初は皆、半信半疑だった。
そんなことをする人には見えないし、自分といるときはそうでもないよ。ただの勘違いじゃない?……って。
だけど、矛盾だらけの話も粘り強くチマチマ積み重ねていくと、事実に思えてくるらしい。
永遠に思えた友情は、蜘蛛の糸を引きちぎるよりも簡単に、1人の策略者の手によって、あっさりと
1度崩せば、後は簡単。
何でもないことでも悪意たっぷりに「ほらね?」と言ってしまえば、本当にそうのように見えてしまうし。
相手より自分の方がより詳しく知っていると言ってしまえば、その子が言う虚像の方が本物に見えてくる。
一種の洗脳みたいなモノだ。
同じことを言う声が多ければ多いほど、たとえそれが嘘でも事実に思えてくる。
何かがおかしいと気付いた頃には時既に遅し。
裏切りのレッテルを貼られた私は行く先々で避難の的になった。
元々、人付き合いが苦手な私と、天真爛漫で人望が厚い彼女。
人がどちらの味方に付きたがるかなんて言うまでもない。
最初は控えめだったイジメも徐々にエスカレートしていき、クラス全員、学年全員からのシカトと嫌がらせが始まった。
それはもう、次のターゲットが現れるまで終わることないだろう。
ちなみに、どうして彼女が私にそんなことをしたかというと、彼女がそういう人間だったとしか言いようがない。
元親友と同じ塾に行ってた生徒が言うには、彼女は今まで何度も同じことをやってきたらしいから。
言ってしまえば“構ってちゃん”で臆病者。
そうやって他人を貶めて、自分は健気な女の子を演じることで、彼女は自分の人生を平和に生きてきた。
それを告発すれば、いい餌。
彼女のことだから、今度は嘘をつかれて貶められそうになった可哀想なヒロインでも演じるのだろう。
ほとんど病気。
でも、それが彼女であり、彼女という人間の素だ。
それに彼女ほどではないにしたって、案外、皆そんなものなのかも知れない。
誰しもが、きっと心の片隅では誰かを救うヒーローになりたいと思っている。
だから、悪役っぽい誰かを徹底的に痛めつけては“正義のために戦った!”と鼻息荒く捲し立てる。
自分が悪役に落ちてしまった、とは気づかずに、手っ取り早く正義のヒーローになるために、手頃な人間を捕まえては攻撃を入れる。
そういう人はもう、事実なんてどうでもいい。
誰かのヒーローになれた、ってことが重要。
そして誰かのヒーローになることで、自分は価値のある人間だと思い込みたいだけ。
むしろ、そう思いたいからヒーローになりたがる。
皆、モブではいたくないから。
そんなことをしなくたって、自分の人生は腐っても自分が主人公なのに気づかない。
とにかくドラマやアニメの世界の登場キャラのようになりたがる。
現にイジメに気付いた母親もそう。
大好きなドラマの登場人物と同じ台詞を吐きながら、目をギラギラと輝かせて“イジメなんかに負けるな”と毎日ウキウキで捲し立ててくる。
別に慰めて欲しいわけでも、助けて欲しいわけでも、怒って欲しかったわけでもない。
だけど、さすがに楽しそうにするのだけはヤメて欲しい。
願わくは寄り添って欲しかったし、安心出来る場所があると思いたかった。
しかし、現実は厳しい。
学校から帰る度に、歪んだヒーロー欲に付き合わされている。
負けるな!頑張れ!と言われる度に疑問が浮かぶ。
負ける、負けない、の話じゃないのにな、って。
父親はクズすぎて困るし。
それこそ暇さえあれば遊び歩いて、借金ばかり増やしてくる。
それが地味にキツイ。
おかげで私もバイト三昧だし、貰ったバイト代を全てその返済に費やしている状況。
どうして私が?と疑問に思うけど、とにかく払わなきゃ取り立てが凄まじいし、仕方がない。
住んでいる家も広さと古さのわりに家賃が割高。
今すぐ引っ越したいけど、父親が酔って暴れたときに壁を凹ました所為で退去費にバカでかい金額が必要らしく、出て行きたくても出て行けない。
しかも、昨日だよ。昨日。
ヤツめ、何をとち狂ったのか「歳を誤魔化して知り合いの店で働いて来い」とまで言い出した。
その知り合いの店って男の人しか行かないような、大人のお店でしょ。
娘を売り飛ばす気か、あの父親は。
本当に反吐が出る。
どうして私がそこまでしなきゃいけないの?お父さんが遊んで作った借金でしょ。人に頼らず自分で稼いで返しなさいよ!って話。
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