第9話

頬に当たるエアコンの風。




心地よさを感じながら閉じていた瞼を開けると、横にいたあっくんと視線が交わった。




時計を覗けば、既に2時間ほどっている。



どうやら本気で寝ちゃってたみたい。




部屋の中にいるのは私とあっくんだけ。



畑中君と早川君は家に帰っちゃったらしい。




さっきまで騒がしかった部屋の中は、すっかり静かだ。





「ごめん。せっかく集まったのに……」



「別にいい。あの後も何やかんや盛り上がったし」



「ほんと?」



「マジ。また同じメンツでやろうな、って2人とも言ってたわ」



「そっか。なら良かった」




しょぼくれた私を慰めるように、あっくんは私の頭をクシャクシャと撫でた。



安心した気持ち半分、心地よさ半分で再び瞼が閉じそうになる。




しかし、2度目の居眠りは許して貰えないらしい。



目を瞑ったら頬を引っ張って強引に起こされた。





「痛い……」



「寝るな」



「えー…」





ちょっと不満な声を出しつつ、視線を向けたら、あっくんは何故かいつになく真剣な顔をしていた。




いつもふざけずに、そうやって真面目な顔をしていたらカッコイイのに。




なんて心の中でひっそり思う。




すると、あっくんは大っきく溜め息を吐いて私の頭から手を離した。




不機嫌そうに眉を寄せられ、思わず「何?」と首を傾げる。




「……お前、俺のこと全く男として見てねーだろ」



「まさか。そんなことないよー」



「本気で?俺が男だってわかってる?」



「当たり前だよ。今さら“実は女の子でした”なんてオチはありえないでしょ」




急に何を言い出すんだこの男は。



そんな思いを抱きながら笑ったら、あっくんは私を見下ろして目を細めた。




それはもう、頭のネジが1本、2本、外れちゃったような。



静かに怒りの火を灯らせたような。



そんな怖くて冷やかな顔で。



ドキリと心臓が音を立てた瞬間、あっくんは何を思ったのか私のシャツのボタンに指を掛けた。

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