第92話

そんなの通じるのかって恐らく通じる。


少なくとも門に向かって歩いていたツンキーが、二人の姿を追って校舎の方に踵を返した時点で作戦は成功だ。



今頃、ツンキーの頭の中は香織ちゃんへの可愛さと慶彦への不満でいっぱいに違いない。


パッと出の男に香織ちゃんは渡さん!とか思ってそう。




「ここが茶道部の部室だよ」


「わぁ!本格的ですね」


「こっちは家庭科室」


「広いですね。設備も最新ですし」


「でしょ。あっちは1年の教室があって、そこを通りすぎると理科室が~」



物凄く真面目に見学しつつ、仲睦なかむつまじく校内を歩く香織ちゃんと慶彦。


心なしかさっきよりも距離が近い。


肩と肩が触れ合う距離。



「昨日やってた学園ドラマ見ました?」


「見た見た。主人公の女の子が可愛すぎてヤバかった」


「この後の展開はどうなるのか気になるよね」



二人の後ろを女子メンバーがドラマの話とかしながら付いていく。


途中、先生とも擦れ違ったけど、挨拶を交わしただけで香織ちゃんのことはスルーだった。


校長から趣旨しゅしを全教員に伝えてあるし、特に問題はないのだろう。


気にしまくっているのは私たちの後ろを歩いているツンキーだけ。




「近寄るなよ、六香むつかァ……」



廊下の隅っこ、歯をギリギリと鳴らして怒るツンキーの声。


いちゃつく二人にかなり腹が立っているらしい。


壁を蹴るような音が聞こえてくる。



「OK。いい感じだね。三人とも一旦、香織ちゃんと慶彦から離れてくれる?」



耳に付けたイヤホンを通して理央から指示が入る。


言われたとおり慶彦と香織ちゃんに別れを告げ、小春と鈴花と一緒に階段を上って物陰に隠れた。



私たちがいなくなったことにより、ツンキーが先ほどよりも堂々と二人の跡をつける。


随分とイライラした様子で。

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