第91話

「今日は来てくれてありがとう」


「いえ、こちらこそ。いきなりこんなことを頼んですみません」


「いいんだよ。むしろ嬉しい」


「ありがとうございますっ」


「さぁ、中に入って。早速、校内を案内するから」



慶彦が台本通り香織ちゃんを手招てまねきしながら校舎の方に足を進める。


香織ちゃんもコクリと頷き、穏やかな微笑みを浮かべて慶彦の隣を歩き始めた。



そんな二人の後ろをアヒルの子供のように付いていく、エキストラ役の私と鈴花と小春。


その様子を雄大と颯が撮っていく。



颯の持つカメラは録画用、雄大の持つカメラは配信用で理央の前に置かれたパソコンと繋がっている。



さらに全員の耳にはイヤホン。これは理央から出された指示を聞くために付けた。


私たち演者組は録音機能付きのマイクも仕込んである。



この後の流れは単純でツンキーが動くまでひたすら校内を案内して回るだけ。


一応、設定としては香織ちゃんが学校を見学したいと慶彦に頼み、慶彦も生徒会のメンバーとして快く引き受けたってことになっている。



重要なのは香織ちゃんが慶彦を好きって設定の下に動き、慶彦の方も満更でもない態度を返すことだ。


そうすればツンキーのことだから絶対に何かを仕出かすだろう。


そこで現れた私たちがツンキーを詰め、準備室に閉じ込めた件を自白させて物語は閉幕。


後は証拠の品を校長に提出すれば澤田君の停学は今日で終わる。


要はツンキーの嫉妬心を煽り、墓穴を踏ませ、最後は澤田君の停学の終了を勝ち取るのだ。

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