『生徒指導室』

第86話

「いい?私が名前を呼ぶまで普通の鳩の振りで待機だからね?頑張って」



澤田さわだ君が停学になって数日後のお昼時。


補習を終えた私は校舎の端にある生徒指導室の窓の下でピーコに言い聞かせた。



私の声を聞き、バサバサと音を立てて二階の生徒指導室まで飛んでいく賢いピーコ。


その愛らしい足にはメモが括り付けてある。


【私、ピーコ。美人で可愛い鳩の女の子】ってある種、名札のような手紙だ。



これなら先生に見られても怪しまれないし、澤田君には意図が通じるだろう……と、期待しながら物陰に隠れる。



ピーコは臆病だから一人で外には出ない。


窓が開いていようが私と一緒じゃないと出ていかない。


そんなピーコがメモを括り付けて自分のところに飛んできた……ということは私が近くにいるに違いない、とピーコをよく知る澤田君ならすぐに気が付くだろう。



気付いた澤田君は真っ先に外を見るはず。


それも先生が近くにいれば見ないし、いなければ見る。


そして私の姿を見つけるのだ。


こうすれば電話を鳴らすよりも安全かつ確実に会える。




「………伝書バトって。戦国時代の武将か、お前は」



企み通り窓から顔を出した澤田君は私の姿を見つけると呆れたように笑った。



思っていたよりも元気そうだ。


顔色も悪くない。


ただ黒染めさせられて金髪だった髪がこげ茶っぽい色になっている。

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