『俳優ツンキー』

第83話

「んー、その日はすぐに帰っちゃったから何も見てないや」



次の日の補習後。教室から出た私は証拠集めをするべく、補習に来ていた別の生徒に聞き込みを開始した。


しかし、苦戦中。


目撃者が全くと言っていいほどいない。


皆、首を横に振るばかりだ。



そりゃそうか。


皆、補習が終わると同時にすぐ帰っていたし。


仮にも夏休み中のこの時期に、他から少し外れた場所にある準備室の前なんて通らないだろう。



だからこそ私も閉じ込められて焦っていたんだし。



「原谷〜。その腕、どうしたん」


「あぁ、澤田にボコられてさ」


「マジ?」


「マジマジ。機嫌が悪かったみたいで」




腕に包帯を巻いたツンキーが声を掛けてきた他の生徒に弱々しい笑みを向ける。


いつもは真っすぐなツンツン頭も今日は普通。


特徴のない平凡な姿になっている。


腕を痛めているからセット出来ないのか。



「あいつやばいじゃん……」


「だろ」



ツンキーに声を掛けた生徒は驚き顔。


それをいいことにツンキーは犯人のくせして被害者を演じている。



きっと一発も殴り返せずにボコボコにやられたのが悔しかったのだろう。


「受け身を取ったけどダメだった」とか「やり返したら負けだと思って」とか、言い訳みたいにツラツラと喧嘩に負けた理由を並べている。


自分は意思を持ってやられたのだ。と、そこすらも嘘を吐いて。



虚しい男だ、ツンキーよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る