第74話

それにしたってツンキーは香織ちゃんのことが本気で好きらしい。


ここまで澤田君に執着している理由だってきっと香織ちゃんだ。


彼女が好きでアピールをしたいけど、いつも澤田君が邪魔をするから、それが気に入らないんだろう。



それに彼女の好きなタイプが【自分より強く自分に手をあげてこない男】なのにも理由があると思う。


何といっても香織ちゃんの強さは全国大会優勝レベル。


勝てる男の方が少ない。


その数少ない内の一人が兄である澤田君である。



きっとツンキーは“澤田君さえ倒せば自分にもチャンスがある”と、思っているんだろう。


澤田に勝てば実質、香織ちゃんよりも強いってことになるから。



しかし、本当のところは『香織ちゃんの片思いの相手がそういう人』っていうのが発言の真相だから、ツンキーが澤田君に勝ったところでチャンスはないのだが。


ツンキーは知らないし、知ったところで諦めるのかも怪しいところだ。




「コラ!松戸と澤田。喋ってないで真面目に授業を聞かんか」



話し声に気づいた先生が手を止めてチョークを私たちに向ける。


あ、やばい。なんて思った瞬間、ツンキーが振り向いてじろりと私たちを睨んだ。


目が合えば顎をツンと上げておすまし顔。



「お前らやる気がないんなら帰れよ!邪魔」



そして野次でも飛ばすようにそう言って、ポケットに手を突っ込みイスにふんぞり返った。



いきなり真面目ぶっちゃって。


やる気がないのはどっちなの⁉


澤田君は平然としているが、私はちょっとムッとする。



「いやいや、暗黒ノートを作成していた人がよく言う」


「ああん?」


「さっきから教科書のページが1ページも動いていないのは、いったいどうしてなんですか?」


「勝手に見てんなや!」


「ドアホ。お前らやる気がないなら尚更真面目に話を聞け!」



ツンキーと軽く言い合い。


しかし、先生に怒られてすぐに口を閉じる。



言い返せて少しすっきり。


ツンキーは『ぐぬぬ』と悔しそうにしているけど。

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