第69話

「やほー。お兄ちゃん。来ちゃった〜」


「は?」


「……香織かおりちゃんっ!」



手を振られた澤田君よりも反応良く、ツンキーが大声で少女の名前を叫ぶ。


釣られて振り返れば、セーラー服を着た純情可憐な美少女の姿が門の前にあった。



澤田君を“お兄ちゃん”と呼ぶってことは澤田君の妹?と、疑問に思う私の近くでツンキーがシャキッと姿勢を正し、畏まる。



ドロドロにだらしなく顔を緩めちゃって。


いつもよりワントーン高い声で「元気だった?」と聞く姿はまるで恋する男子。


ってか間違いなくツンキーの好きな子はこの子だろう。



私を含め、この場にいる全員がそう思っている。




「あ、お久しぶりです。原谷君」


「いやぁ、どうも」


「またお兄ちゃんと喧嘩をしてたんですか?」


「そんなまさか!じゃれて遊んでただけっス」



キャピるんと聞こえてきそうな明るい笑顔を向ける香織ちゃんに、ツンキーがデレッと鼻の下を伸ばしながら嘘を言いまくる。



澤田君は「嘘つけ」と微妙な顔をしたが、小春こはる鈴花すずか慶彦よしひこはお互いの顔を見ながら『ラッキー』って顔をした。


勿論、颯と理央も。



隣にいた雄大ゆうだいなんて幸運が振って舞い降りてきたとでも言わんばかりに、腕を組んで笑みをたたえている。


私も皆と同様ラッキーな気持ちいっぱいで眼鏡を指で押し上げた。


最大のチャンス。


これは使える。

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