『香織ちゃん』

第67話

「オッラァァ澤田さわだァァァッ!」



時は過ぎて7月初旬。


帰宅しようと校庭を歩いていた私たちの耳に任侠映画に出てくるような怒鳴り声が響く。


半ば諦めたような気持ちで振り向くと、そこにはすっかり見慣れたツンツン静電気ヘアーの男が。



それも私たちを追って急いで出て来たのか、足元を見れば上靴のまま。


電気のいた校舎を背景に、格闘ゲームのキャラのようなファイティングポーズを決めている。



堪らず視線を重ね合わせる私と澤田君。


他の生徒会メンバーも顔を見合わせ、呆れたように「はは…」と乾いた笑い声をあげる。



今日も我らのライバル、ツンキーのテンションは絶好調。


停学が明けても何一つ変わらない。


相変わらず校則違反はスリーアウトのままだ。




「……ねぇ、澤田君。ラーメンでも食べに行きません?」


「そうだな」


「ほら、駅前の新しいところにでも」


「わかった。奢る」


「わ~い。ありがとうございます」


「おいコラ、無視すんなやっ!!澤田ァァァ」



背を向けてスルーしようとしていた私達にツンキーは声を震わせ叫ぶ。


無視はさせてくれないらしい。



「声が煩いよ。原谷はらたに君」


「黙れ」



声の音量を指摘したはやてを突っぱね、ツンキーは拳を握り締めてメラメラと瞳を燃え上がらせる。



理央りおが「懲りないねぇ」と皮肉っぽくせせら笑ったが、まったく気にしていない。


喧嘩でも始めようと思っているのか、肩を切って真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。

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