『全部、原谷』

第62話

「障害物競走、原谷はらたに。こっちも原谷。これも原谷」



ピーコ閉じ込め事件から1週間後の生徒会室。


メンバー全員が長机を囲って体育祭の種目について議論する中、未だツンキーに対して苛立っていた私は障害物競走の走者の欄にツンキーの名前を永遠とつらねていた。


あれからツンキーは停学になり実質的には成敗された。


しかし、謝ってもくれず、反省もしてくれず、こちらとしてはモヤモヤ。


顔を合わせないし、怒れないし、処分は甘いし、怒りをぶつける先がここくらいしかない。


ファッキュー、ツンキー。許さんぞ。



「なんで、あいつの名前ばっか書いてんの?」



それを隣で見ていた澤田さわだ君が苦笑いを浮かべて私に何をしているのか尋ねてくる。


すっかり生徒会のメンバーの一員って顔をして、絶対に入りたくないと抵抗していた最初の澤田君が嘘のようだ。



「一人で障害物競走を走らせる為ですよ」


「一人じゃ競技にならないだろ」


「ならなくていいです。途中で彼が食べるパン全部に下剤を仕込むことが出来ますから」



『的中率100%!』と言って悪魔のような笑みで“タン”と舌を鳴らし、首を切るように親指をシュッと横切らせる。


ツンキー成敗のポーズだ。


もちろん冗談ではあるが。



「待て。それだけはヤメておけ」



しかし、澤田君は真剣な顔で私を止めてきた。


ペンを握った私の手を掴んで、首を横に振って、諭すような瞳で本気も本気。


冗談で言っただけなのに顔がガチ。しかも他の皆まで真に受けている。

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