第53話

「おっと。ここはやはりドキッとしておいた方がいいです?」


「しなくていい。言われてするもんじゃねぇ」


「えー」


「それよりもお前、あれから原谷はらたにに絡まれてないよな?」


「はい。それは全く。皆、姿を見つけると直ぐに知らせてくれるんで」


「そうか」



安心したような表情を浮かべる澤田君にニッコリと愛想のいい微笑みを向ける。


澤田君はここ最近、毎日こんな感じだ。


自分が理由で絡まれたこともあってか、話す度にチラッとツンキーのことを聞いてくる。


心配しなくたって私は大丈夫なんだけども。



「ふふん。今やツンキーは一般生徒を殴ろうとした極悪卑劣な悪党ですからね。何を喚こうが避難の嵐。彼に勝ち目はないです」


「末恐ろしいな」


「何を言っているんですか。売られた喧嘩は叩き壊して熨斗紙を付けて送り返す。それくらいやらないと」



悪どい表情を浮かべてクックックッと笑って見せる私に澤田君は声もなく笑う。


呆れたというより頼もしいって意味の表情で。




「お前はホント優しいのか、恐ろしいのか、それともアホなのか、どれだよ」


「全部です」



目を細めて尋ねてきた澤田君に、手を腰に当て、指を指し、顎を上げ、自信満々に言い返す。


全ての要素をひっくるめて私、松戸菜々である。


その考えだけは何があろうが譲れない。

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