第48話

「平気?」


「はい」


「そっか」


「え、トキめいておくべきです?」


「アホか。トキめかんでいい」


「ありがキュンと澤田キュン、どっちの方が好みです?」


「どっちもいらんわ」




何だか気恥ずかしくなって指でハートを作った私を軽くあしらい、澤田君は余裕綽々に薄く笑った。



あれー?ラブイベントが起きた?私にもついに春キュンが?なんて、ちょっとワクワク。



しかし、再び澤田君の顔を覗けば涼しい顔だ。


視線は真っ直ぐツンキーに向いている。



おのれ。ツンキー。邪魔だー。と腹が立ったが、ツンキーの血走った目が思いのほか殺気立っていたので押し黙る。



「毎度、毎度、不意打ちを食らわしやがって!ずるいんだよっ」


「ほざけ。お前が相手じゃ不意をつくまでもねぇだろ」


「ああん⁉バカにしやがって。ぜってぇ負かしてやるっ」


「へー。それは楽しみだ」


「次こそ正々堂々と勝負しろ!」



絶対に不意をついたはずがないのに、ツンキーは恥ずかしさからか、澤田君を卑怯者呼ばわりしながら喧嘩を申し込む。



たった今、この場で負けたのにだ。


既にワンパンで払い除けられて転げまわっている最中なのに、懲りるどころか勝ちにいこうとまでしている。



「チャレンジャーですね。原谷君」



思わず顔を引き攣らせ、真剣なトーンでツンキーにツッコむ。



「おうよ」


ツンキーは応援された気分にでもなったのか、鼻を指で擦りながらキリッとした厳つい顔を浮かべた。


この男、無謀と言うか本当にバカな男である。

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