第19話

「ウケるわー。ここまで酷い答えを書くやつなんて初めて見た」


「しかもこれで進学希望だったりしますからね」


「それは厳しい。つか無理だろ」


「だからこそ、澤田君に頼みたくて」




テッテレーと効果音を鳴らす勢いで奥のソファに座った澤田君に詰め寄る。


少しばかり強引だけど、ここはもう押せ押せ戦法だ。


とにかく頷かせたい。




「何?勉強でも教えろってか?」


「その通り!」



祈るように指を組み、おさげ髪を振り回し、キラキラと瞳を輝かせながら、澤田君にお願い攻撃を放つ。


ふふふ、いつもこれで可愛い弟に畳んだ自分の洗濯物を片付けて貰ったり、食べ終わった後の食器を片付けて貰ったりしてきた。


あのおねだり上手な弟がいつも負けて言う通りにするくらいだ。


いくらバチクソヤンキーな澤田君といえどもこの攻撃には勝てるまい。



「まぁ……。他の珍回答も見てみたいしな。暇なときなら考えてやらなくもない」


「本当ですか⁉」


「あぁ」


「出来れば授業に出て、その内容をその日のうちに教えて貰いたいんですけど」


「なんで?」


「じゃなきゃ忘れちゃうんで。頭の容量も追い付きませんし」



悪くない反応を返してきた澤田君に「澤田君が思っているより私はポンコツです」と大真面目な顔で情けないお願いを始める。


ついでに【澤田慧悟の更生】のミッションもこなしてしまおうって魂胆。


毎日一緒に勉強って何だか面倒くさい流れになりつつあるけど、この際ここから引っ張り出せれば理由は何だって良い。


出さないことには生徒会室にも連れて行けないもん。





「報酬は鳩の出し方でどうです?」


「そこでさっきのネタを引っ張ってくるのか」


「ふふん。気になるでしょう」


「まぁ、気にはなっているな」


「では教えますから鳩を休ませている生徒会室まで来てください」



ずいっと更に一歩、身を乗り出した私に澤田君は頭を抱えて溜め息を1つ。


面倒くさいと思ってそう。


しかし、好奇心には勝てなかったんだろう。


澤田君は「他の答案も見たいから過去のテストを全部持ってこい」と、私欲と親切心を入り交ぜながら、私の顔を見てニンマリと笑った。

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