第63話

「待て」



無言で駆け出そうとした私の耳に低い心地の良い声が落ちてくる。



声の主に視線を合わすと先程より凶暴さが幾分か減った彼。


腕を掴まれて『ウッヒョォォォッ!』と喜びの雄叫びをあげそうになったのを必死の思いで我慢した。


さすがに不審者だとは思われたくない。




「すみません。ちょっと追われてて……迷い込んだだけです」




相変わらず訝しげに私を見つめてくる彼にペコリと頭を下げる。



とにかく早く逃げなきゃならない。

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