第35話

華やかで可愛いピンクの振袖も、女の子を着飾ることは出来たって走る時にはただの足枷にしかならない。



履き慣れない下駄が足袋と擦れてツルツルと滑り、時折躓きそうになる。



こんなのときめかない。


こんなものに何の意味がある?


むしろ、いらない。


重っ苦しいんだっつーの。




「待ちなさいっ」



お母さんが私を呼ぶ声が遠くに聞こえる。



でも、私は止まらない。


止まることが出来ないの。

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