線香花火〜儚きは現実、永遠の思い〜

第3話

夏休み、花火大会。

 夏の楽しみといえばそれだろうと彼女がはしゃいでいる。数人の女友達と、彼の友達を巻き込んで花火大会に行くことが勝手に決まってしまう中、そんな彼女と幼なじみの彼が大きくため息をつき、諫める言葉を口にする。


「……周りを巻き込むな」

「巻き込んでないもん!」

「いや、明らかに巻き込んでるだろ」

「気のせいよ!」

「……気のせいに感じないからこそ意見してるんだけどな」

「なによ! 堅いこと言わないで! 浴衣着たいの! 浴衣!」

「はいはい。勝手に着れば?」

「冷たいっ!」


 そんな二人の言い合いに回りは慣れているのか、またかと笑いながら茶化してくるのを聞きながら、その日は解散となる。

 しかし、彼女の花火大会に行きたい、という思いは本気らしく、友人たちと一緒になって計画を立てているらしい、と彼も友人から聞き、ため息が思わず出てきてしまう。

 あれほど周りを巻き込むなと言ったのに、と内心で毒吐きながら、しかし自分の周りの友人たちも満更ではないらしく、ウキウキとしているのが目に見えてわかるため、あえてなにも言えなくなり、無言のまま花火大会前日に迫ってしまった。

 夜、自身の部屋で寛いでいると電話がかかってきて、画面を見れば【彼女】だと理解する。

 なんだ、と思いつつ電話に出れば、電話の向こうで元気に話しかけてくる彼女がいた。


『夜にごめんね! どうしても明日、一緒に行きたくて!』

「やだよ。神社に集合なんだろ? そこでいいじゃん」

『なんでっ!? 一緒に行こうよ!?』

「やだ」

『え〜……』

「そもそも、お前浴衣着るんだろ? 時間かかるじゃん。先に行くわ」

『そこは綺麗なお前を一番最初に見たいから待ってるよ、とかじゃない!?』

「なんでオレが?」

『………あー、うん。なんでもない。夜遅くにごめんね』

「あ、おい!」


 ぷつ、と切れた電話になんなんだよ、と悪態をつきながらスマホをベッドの上に放り投げる。

 そもそも、彼女は幼なじみという自分に甘えすぎなのだ。ちょっと何かがあるとすぐに泣きついてくるし、助けを求めてくる。それくらいは自分で解決しろよといいたい事は何度もあった。


「……はぁ」


 少し憂鬱な気持ちを抱えながら、彼は眠りについたのだった。





 翌日。

 結局彼女を迎えに行くことなく一人でてくてくと神社に向かって歩き、待ち合わせ場所にたどり着く。時間に余裕を持ってきたためか、まだ誰もいないのを見て、早すぎたかと内心でぼやきながらスマホでゲームをぽちぽちとしていると、ちらほらとメンバーが集合してくる。

 あいつはまだか、とそんなことがよぎったとき、彼女の友人がそっと自分に近づいてきた。


「……あの、余計なお世話だと思うんだけどさ」

「なに?」

「なんであの子と一緒に来なかったの?」

「は?」

「誘われたんでしょ? 一緒に行こうって」

「いや、確かにそうだけど、なんでオレがあいつと一緒に来ないといけないわけ? 幼子でもないんだし、一人でここまで来れるだろ」

「……………あー……なるほど。これは苦戦するわ……ちょっと同情してしまったよ」

「なんだよ」

「なんでもない。じゃあ、あの子が来たとき、突っ掛からないでね」

「はぁ?」


 言いたいことだけ言って、さっさと離れていく彼女の友人を見てなんなんだよ、と胸中で悪態をついて、視線を逸らしたその先に、見つけた彼女の姿に体が固まってしまった。

 見覚えのある彼女が、自分の友人のうちの一人と並んで歩いている。それだけでも、なぜ、と疑問がよぎったのに、いちばんの疑問は金女が身に纏っている浴衣だった。

 去年までは白地に、ハイビスカスがプリントされている浴衣を着ていたはずなのに。

 今年は、何故か藍の記事にアネモネの花がプリントされている浴衣を見に纏っている。

 その瞬間、彼の中で何かが瓦解する音が響いた。


「きゃーっ、かわいい! 去年まで来てたのと違うね!?」

「う、うん。ちょっと雰囲気を変えたいなーって思って」

「似合う似合う! 大人っぽい!」

「ほ、ほんと? 嬉しい!」


 そう言って、彼女自身の友人とはしゃいでいる声を聞きながら、彼は己の表情がなくなっていることを自覚する。彼女の方を見ていられなくて、顔を逸らしたけれど、彼女からの視線を感じることもなく、それに、何故か焦燥感を抱く。

 なんでだよ、どうして、と無意味な詰問を自分の中で繰り返しながら、ああなるほど、と納得もする。

 彼女の友人は、自分に釘を刺したのだと。

 彼女の気持ちを知っていて知らぬふりをし、あまつさえ遠ざけようとしたのはお前自身なのだから、彼女が一歩進むための邪魔してくれるなと。そう、釘を刺したのだ。

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