四葉のクローバー〜幸せはすぐそばに〜

第2話

久しぶりに遠出をして、その場でしゃがみ込む彼女を見、首を傾げる。

 柔らかな草の上にはたくさんの蒲公英や白詰草。他にも小さな花々が所々に咲き誇って、自然の豊かさを満喫できる草原に二人は来ていた。

 最初は一緒にはしゃいでいたはずなのに、彼女が途中から何かを夢中になって探し始めてしまい、彼はそんな彼女をただ見守るだけの保護者となってしまっている。


「……何してるの?」

「四葉のクローバーがないかなって思って」

「……なんで?」

「だって、幸せのクローバーだよ? 欲しくなったの!」

「お土産屋さんの売店に、そう言うのって大抵売ってるんじゃないの?」

「夢ないこと言わないでよ! 自分で探して見つけたものの方がなんか御利益ありそうじゃん!」

「御利益、ねぇ……」


 そう呟いた彼の声を聞きながら、ぷくっと頬を膨らませつつ、それでもじっと下を見つめながら、たまに手を伸ばしてかき分け、探す。

 そんな彼女の行動に、特に何も言わずに付き合っている彼の存在に、絶対に見つける! と意気込んで、彼女はさらに目を皿のようにして意地になって探し始める。

 そんな様子を見ながらため息をつきつつ、とりあえず好きにさせるかと少し放置することを選び、彼はその場に座り込んだ。

 時間が過ぎていく。

 まだ見つからないのか、少ししょんぼりとし始めた彼女を見かねて、彼は声をかけた。


「あのさ」

「……はい…」

「どうしてそんなに四葉が欲しいの?」

「だって、四葉のクローバーは幸せを運んでくれるんでしょ?」

「オレと一緒で、幸せじゃないの?」

「…っ!? そう言うわけじゃ!!」

「あ、ごめん。意地悪のつもりじゃないんだけど…でもさ、そうやって一生懸命幸せを探してるってことは、自分でも幸せを掴むことができるってことなんじゃないの?」

「…?」

「無理に探さなくても、そうやって努力してるお前は、とっくに幸せを持ってるんじゃないかなーってオレは思うけど?」

「……うん…」

「じゃあさ」

「?」

「今ここで、四葉のクローバーなんかよりももっと大きな幸せを感じられれば、それは必要なくなるよな?」

「え?」


 そう言って、彼は立ち上がり彼女のそばに膝をつく。

 彼女も彼を見上げてじっと見つめる。

 そんな彼女を見つめながら、そっと自分の鞄に手を突っ込み、用意していた“それ”を手に取って、彼女の目の前に持っていき、そっと開いた。


「――オレと、結婚してくれますか?」


 出てきたのは、ジュエリーケース。

 その中にそっと鎮座しているのは、彼女が今まで探していたものがモチーフになっている、シルバーのリング。

 言葉もなく驚いてしまう。

 そうして固まっている彼女に、彼はさらにそっとプレゼントを添えるように置いた。


「さ、オレに愛される覚悟はある?」


 にっこりと笑ってそんなことを言う彼に、彼女は笑い泣きのまま、彼が広げてくれている腕の中に飛び込んだ。


「喜んでっ!!」


 受け取った小さな宝箱の中には、幸せのリングと、幸せの四葉が静かに寄り添っていた。




*おまけ*


「そもそも、探そうとしているのがなんか違くね?」

「……それ言うの?」

「探そうとするってことは、そう言う努力がちゃんとできてるってことだろ? 自分でそれを掴める可能性を持っているのになんでそんなことすんの?」

「い、いいじゃん! なんか欲しくなったんだもん!」

「ま、オレはその努力ができなかったから、これを見つけられたんだと思うけどな」

「そう! そうだよ! なんで四葉持ってるの?」

「座り込んだ時にたまたま見つけた」

「なんかずるいっ!」

「いいじゃん。おかげでプロポーズもできたし?」

「……それなかったらできなかったの?」

「………………タイミング図ってただけだし」

「そういうの、へたれって言うんだよ」

「うるさいな!? くっそ! 今夜覚悟しとけよ!」

「何おー!? 受けて立つっ!」

「……………意味わかってねぇな、こいつ……」


 脱力したのは仕方ないことである。

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