短編集
妃沙
どこにでも行ける魔法のチケットが手に入った
第1話
私の手を引きそう言ったあなたは、素晴らしいところへと連れて行ってくれる。見渡す限りの青と目を楽しませてくれる色とりどりの花々。
笑顔が溢れる私に、同じように笑顔を向けてくれたあなた。
繋いだ手を離さないように強く握りしめていたのに。
あなたの姿が突然霧散する。
驚いて目を見開き、光の粒子となって私のそばを離れるあなたを、ただ見ていることしかできなかった。
一人ポツンと美しい景色の中に残された私は、流れる涙をそのままに泣くことしかできなかった。
*
はっと、目が覚める。
自分が泣いていることを自覚して、なんでと混乱して。そして私は自分が強く握りしめている、一枚の長方形の紙を自覚した。
ああ、と理解する。
あまりに泣きはらし、どんどんと弱くなっていく私を見かねて友人が送ってくれた、最上級の魔法のプレゼント。
たった一度だけ願いを叶えてくれる、大切な大切な
それを使って、私は愚かなことをしたのだ。
「……それでも…、それでも私は、あなたにどうしても会いたかったの……!」
こぼれる涙の量が増える。握りしめているただの紙切れがしわくちゃになっていく。
あなたに会いたかった。
あなたに抱きしめて欲しかった。
もっともっと、いろいろなことをあなたと経験したかった。
それなのに。
あなたは私を置いていく。
「どうして…幸せになってなんて…あなたは言えるの……っ?」
残酷な言葉だけを残して、私は今日も、あなたのいない毎日を過ごさなければならない。
空虚になった私を、あなた以外が満たせるなんて考えられない。
私は今日も、1日をベッドの上で過ごす。
あと、どれほどの時が経てば、私はあなたに会えるのだろうか?
あなたの笑顔を想像し、目を閉じる。このまま二度と目覚めたくないなと、願いながら。
*
「しょうがないなぁ……。でも、君はまだ楽しまなきゃいけないよ」
そう呟いて、僕は自分の目から流れる涙をそのままに、今日も彼女が死なないように、見張り、僕のところへ来ないように細工を繰り返す。
「大事な人だから……幸せになって欲しいんだ」
そんな僕の呟きは、もう、彼女には届かない。
完
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