短編集

妃沙

どこにでも行ける魔法のチケットが手に入った

第1話

‪私の手を引きそう言ったあなたは、素晴らしいところへと連れて行ってくれる。見渡す限りの青と目を楽しませてくれる色とりどりの花々。‬

‪笑顔が溢れる私に、同じように笑顔を向けてくれたあなた。‬

‪繋いだ手を離さないように強く握りしめていたのに。‬

あなたの姿が突然霧散する。

驚いて目を見開き、光の粒子となって私のそばを離れるあなたを、ただ見ていることしかできなかった。

一人ポツンと美しい景色の中に残された私は、流れる涙をそのままに泣くことしかできなかった。



はっと、目が覚める。

自分が泣いていることを自覚して、なんでと混乱して。そして私は自分が強く握りしめている、一枚の長方形の紙を自覚した。

ああ、と理解する。

あまりに泣きはらし、どんどんと弱くなっていく私を見かねて友人が送ってくれた、最上級の魔法のプレゼント。

たった一度だけ願いを叶えてくれる、大切な大切な紙切れ・・・

それを使って、私は愚かなことをしたのだ。


「……それでも…、それでも私は、あなたにどうしても会いたかったの……!」


こぼれる涙の量が増える。握りしめているただの紙切れがしわくちゃになっていく。

あなたに会いたかった。

あなたに抱きしめて欲しかった。

もっともっと、いろいろなことをあなたと経験したかった。

それなのに。

あなたは私を置いていく。


「どうして…幸せになってなんて…あなたは言えるの……っ?」


残酷な言葉だけを残して、私は今日も、あなたのいない毎日を過ごさなければならない。

空虚になった私を、あなた以外が満たせるなんて考えられない。

私は今日も、1日をベッドの上で過ごす。



あと、どれほどの時が経てば、私はあなたに会えるのだろうか?



あなたの笑顔を想像し、目を閉じる。このまま二度と目覚めたくないなと、願いながら。



「しょうがないなぁ……。でも、君はまだ楽しまなきゃいけないよ」


そう呟いて、僕は自分の目から流れる涙をそのままに、今日も彼女が死なないように、見張り、僕のところへ来ないように細工を繰り返す。


「大事な人だから……幸せになって欲しいんだ」


そんな僕の呟きは、もう、彼女には届かない。


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