第85話

それが気まずいのか、中村さんはあの一件以来ピタリと私の前に顔を出さなくなってしまった。



だから私と中村さんの関係は未だに解消出来ていないまま。


周囲には婚約者で通ってる。



正直、早く何とかしたくて電話を掛けてるけど、留守電に繋がるばかりで出てくれない。


日舞の稽古に行っても豊子先生の態度は変わらず、息子の婚約者扱いのまま。


解消するにしたって、中村さんの仕事とお婆ちゃまの生花が絡んでるだけに勝手に話を進める事も出来ないし。



傍から見れば、婚約者が居るのに、彼氏を作って、心では他の人を思ってる、この状況。


本当に笑えない。


早くどうにかしたい。





「違うの?」


「そうです」


「やっぱりそっかー。ちょっと、こっちに来て」




抱えたトレイをテーブルに置き、茉依さんは呆然としていた私をちょいちょいと手招きする。


言われた通りに後を追い、カフェテリアから外に出たが頭の中はパニックだ。



いったい何だろう。


嫌な予感しかしない。

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