第82話

お兄ちゃんが望都を殴った次の日。


私がモデルになった油絵とスケッチブックは全て回収したらしく、お兄ちゃんが忌々しそうに全部まるごと焼いて処分してた。



だから望都の手元には残ってない。


残ってないけど、当時の姿を思い出して新しく描いてるような事を言ってたし、不安だ。



いつかノンちゃんに見られるんじゃないか、って。





「……おい、チエミ殿」


「え?」




名前を呼ばれ、顔を上げるとノンちゃんが訝しげな顔で私を見ていた。


凄い怪しんでる顔。


心臓がゾッと嫌な音を立てる。




「何?どうしたの?」


「どうしたの?は、お前さんの方だ!この間から、いったい何だ?望都の話をする度にぼーっとして」


「え、そう?気の所為…」


「じゃない。まさか、お前さん、いつものカッコイイ~を拗らせて本気で望都のことを……」




わなわなと唇を震わせ、ラスボス的なオーラを放つノンちゃんにギョッとする。


結ったお下げが逆立ちそうな勢いだ。


怒ってる。

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