第64話

それがもう自分の中に芽生えた気持ちが何なのかを物語ってた。


じわじわと心を染め上げていく色の意味を。



「先輩…」


「ん?」


「約束するから1つだけ我儘を聞いてくれません?」


「我儘?」


「本当に凄く勝手な我儘なんですけど…」


「別にいい。聞いてやるから言えよ」




頭を撫でる感触がするのと同時に、先輩の心地良い声が鼓膜を震わす。


その声が本当に何でも聞いてくれそうな、あまりにも優しい声だったから胸が苦しくなった。


切ないような感情が押し寄せて止まらない。




「お願いだから…、お兄ちゃんとの思い出を忘れないで欲しいです」


「………」


「記憶の中から、お兄ちゃんを消さないで下さい」




だから素直に言ってしまった。



忘れないで欲しい。


たとえ薄れたとしても完全には消さないで欲しい。


そして沢山話して欲しい。


いつでも感じ取れるようにずっと。


自分以外の人にも覚えてて欲しかった。


我が儘だとは思うけど。



「……分かった」



それを聞いて先輩はそう一言呟いた。



私の髪を後ろに流しながら。

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