第47話

本当は辛かったけど、言えなかった。


行って欲しくないと言いたかったけど、我慢した。



だって、それだけ最低な事をした。


お兄ちゃんがどれだけ自分を大切に思ってたか知りながら、その良心に漬け込んで卑怯なお願いをした。


優しさに漬け込んで、自分の欲を貫いて、その上自分の物になって欲しいなんて我が儘を言える筈がなかった。



それに今思えばあの時の私は幸せだったんだと思う。


ずっと欲しかった飴を貰って。


もっと言えば、お兄ちゃんと過ごした日々は辛くったって幸せだった。


居なくなってから気付くなんて遅いけど。





「ワン!」



背後でエミちゃんの鳴き声が響く。


俯いてた顔を上げるとガラスの窓に映った星のピアスがキラッと光った。




「お兄ちゃ…、」



思わず振り返る。


散々お兄ちゃんの事を考えてた所為だろうか。


咄嗟にお兄ちゃんだと思ってしまった。



当たり前だけど、そこにお兄ちゃんは居なくて。


お風呂から上がった先輩が微妙な顔をして立ってた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る