第91話

「さ、言いたい事があるなら是非どうぞ。手紙じゃなく目の前で」


「黙れゴミ。命令すんな。しね。陰険女」


「はい?陰険女~?あなたみたいな陰険、陰湿、陰気な人間の事ですか~?」


「なんですって?バカにすんのも大概にしな!」




ふざけた瞬間、社員Aさんが手にした書類を放り投げて天狗の仮面を付けたような顔で怒鳴った。



あらま。ブッチギレていらっしゃる。


背後に雷でも落ちてきそう。



いや、それより書類の取り扱いは丁寧にしてよ。


それ結構重要なやつなんだから、と心の中で冷静に思う。




「あー、落ち着きたまえ。2人とも」



部長が凄い気まずそうに縮こまりながら割って入って来た。



うぉー、面倒くせー。関わりたくねー。でも、止めなきゃな。俺が止めなきゃ誰が止める。って顔だ。



傍観者だらけの中で自ら止めに入る勇気。


だからこそ、彼は部長の座まで上って来れたのかも知れない。と思った。



若しくはぶちギレてる奥様を常日頃から対処してて慣れてるのか。



最大の味方が最大のクレーマー。


愛を持ったブチ切れを日頃から常習的に浴びてる部長からすれば、他人のブチ切れなど恐れるに足らん可愛いらしいものに見えるのだろう。



嫁のブチ切れに比べればまだマシか、と。

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